論語に学ぶ人事の心得第48回 「師に問題意識をぶつけて対話を触媒にして、自分の見識を深める」

孔子と弟子との対話 出典:Bing

 本項は愛弟子「子夏(しか)」との対話です。「子夏(しか)」は学而編1-7で取り上げられていますが、再度その人となりを紹介しておきます。
 子夏は学而1-3に登場する曽子と同世代の人で孔門十哲の一人です。孔子より44歳若く、子夏は字、姓は卜(ぼく)、名は商(しょう)と言いました。 
 師をうならせるほどの文才の持ち主だったと言われています。
 孔門十哲とは孔子の高弟には70名ほどの秀才がいましたが、その中でとりわけ優れた弟子の十名を指します。これからもこの論語にしばしば登場する人たちです。
 顔回(がんかい)、閔子騫(びんしけん)、冉泊牛(ぜんはくぎゅう)、仲弓(ちゅうきゅう)、宰我(さいが)、子貢(しこう)、冉有(ぜんゆう)、子路(しろ)、子游(しゆう)、子夏(しか)の十名です。
 
 本項の対話でも子夏(しか)は師に質問を投げかけながら、自己の見識を深めようとしています。そして、師の回答に自分の意見を加えて思考することで、より深い知見を体得する姿勢が孔子の望むところです。
 それらを通じて、孔子自身も弟子、子夏(しか)から啓発されることをとても喜んでいます。孔子の弟子を育成する方針は、単に知識を授けることでなく思考力を高め、思索して実践につなげることでした。 
 その意味で今回の対話は、現代に生きる私たちにも孔子の喜びようが見えるようです。

 八佾篇第3―8「子夏(しか)問いて曰(いわ)く、巧笑倩(こうしょうせん)たり、美目盼(びもくはん)たり、素(そ)をもって絢(あや)をなすとは、何の謂(いい)ぞや。子曰(いわ)く、繪(え)の事は素(しろ)きを後にす。曰く、禮(れい)は後(のち)か。子曰(いわ)く、予(わ)れを起(おこ)す者は商(しょう)なり、始めて与(とも)に詩を言ふべきのみと」

 「子夏(しか)問いて曰(いわ)く」が子夏(しか)とは子夏(しか)が訊ねた。「巧笑倩(こうしょうせん)たり、美目盼(びもくはん)たり、素(そ)をもって絢(あや)をなすとは、何の謂(いい)ぞや」とはにっこり笑うとえくぼがくっきり、つぶらな瞳はぱっちりと、色の白さは美しさを際立たせるという歌があるがどういう意味ですかと師に尋ねた。。「絵というものは白色を最後に加えるものだ。「曰く、禮(れい)は後(のち)か」とは子夏(しか)は言った。礼が人生の最後の仕上げということですか?「子曰(いわ)く、予(わ)れを起(おこ)す者は商(しょう)なり、始めて与(とも)に詩を言うべきのみと」とは師は答えた。
 「私を触発(しょくはつ)してくれるのは商(しょう:子夏の本名)だけだ。お前とこそ一緒に詩の話ができるというものだ

 論語の教え48: 「人は躍動的な対話で、断片的な情報を見えざる糸でつなぎ、アイデアを泉のごとく湧き出させる」

◆上司を使いこなす部下になれ
 そんなことができるのかと思われるかもしれません。しかしながら、能力の高い人は上司をまるで自分の部下のように使いこなしています。上司に、あらゆる場面で質問を投げかけ、上司の意見を求めます。上司に質問することを通じて回答を求めているばかりではありません。自分の見解が客観的に見て正しいかどうかの確認をしています。上司も、また質問されるとうれしいので対話がはずみます。部下に回答したことが正しかったかどうか確認するために改めて調べなおすこともあります。さらに、上司もまた他の専門家と対話して知見を深めていきます。いわゆる「知的探求の連鎖」が始まります。この「知的探求の連鎖」はいいことずくめです。まず、上司と部下の風通しがよくなります。上司と部下の信頼関係も深まります。そして、その結果、上司と部下は深い絆で結ばれます。二人の間にラポート(心と心の懸け橋)がかかるという究極の人間関係が形成されるのです。ラポートがかかれば、組織は活力を持ちます。最終的には、結果として業容発展につながります。

◆常に何事も、問題意識をもって観察せよ
 断片的にせよ、系統だっているにせよ、問題意識があれば情報は集まります。それはまるで磁石が鉄くずを引き付けるような様相を呈します。問題意識がなければどんなに情報が有り余るほど飛び交っていても、情報が氾濫していても捉えることができません。心に磁石を持たない人には大切な情報はすべて通り過ぎてしまいます。能力の高い人は問題意識を必ず持って世の中を観察しています。この問題意識の深さが収集する情報の質に直結しています。


出典:Bing

 質の高い情報を入手しようと思うなら問題意識を研ぎ澄ますことです。
 では問題意識とは何かを述べたいと思います。初めにお断りしておきたいのは、問題意識はある特定の人にのみ備わった資質ではないということです。すべての人に神が平等に与えた資質です。
まず、問題とは何かを考えてみましょう。問題とは目標と現状のギャップです。そして、そのギャップは埋めなければならないものです。私たちは誰でも、公的にも私的にも必ず目標と現状があります。同じようにそれは埋める必要があります。問題意識とは自分の目標と現状のギャップを埋めようと常に意識していることを言います。情報が集まらない人、問題意識が希薄な人は自分の目標と現状のギャップを認識することから始めてください。

◆躍動的な対話こそ問題解決の近道
 困難に直面した時に、一人で考え込むことほど時間の無駄で無意味なことはありません。困ったら一人で考え込むなと言いたいのです。どんな人でも一人の力は複数の人の英知の結集には負けます。だから私たちは組織を作り、集団のチームワークで平凡が非凡へと脱皮できるのです。これには前提条件があります。自然人には血液が全身に酸素をめぐらすように組織や集団でも隅々に酸素を送り込む状況を作り出すことが必要です。それはとりもなおさず個人同士の対話を活発にすることであり、報連相により組織の血液である情報を共有することにはかなりません。私たちは誰でも一人で悶々としていたことが対話で断片的な情報がまるで命の糸で結ばれたように生き生きと活動を始める経験を持っています。
(了)


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