人事労務の万病の元は定着率にあり

企業の健康のバロメーター
 企業は人と同じように病気にもかかるし、衰えもします。人が誕生してから児童、少年、青年、成人、老年となる過程は企業にも当てはまります。この意味では企業と自然人の違いは魂があるかないかの違いだといっても言い過ぎではないでしょう。
 ところで、人の健康のバロメーターは血圧だと言われます。何かの病気にかかり診察を受けると最初に血圧が測定されます。血液が人間の健康にとり大切な要素だからです。
 私は定着率が企業にとっての健康のバロメーターだと思っています。なぜなら、社員が将来の夢を託して入社した企業ですからよほどの理由がない限り簡単には会社を辞めないと思うからです。
 ところが、現実は離職率50%の企業はざらにありますし、毎年社員が全員入れ替わるような会社もあります。このような企業は外からは見えませんがきっと企業の病気にかかっているに違いありません。大量に採用し、大量に辞めさせるという悪循環を繰り返しているだけです。

退職事由から企業の病を発見する
 人事労務担当者でも経験の浅い人は退職面談したとしても退職理由だけで企業の病(問題点)を発見できずせっかくの機会を見逃してしまう場合が多いのですがこの退職面談こそ企業の病を発見する大切な場面なのです。
 表面的な退職理由を額面通り受け止めると企業の病が見えなくなります。
 あるデータによりますと退職する理由の第一は帰郷して親の面倒を見るとか家業を継ぐというものですが、実際そうなったかというとそうではなく別の会社に転職していた事例が多いというのです。会社を辞める前でなく、会社を辞めた人の意識を調査すると「会社の中での人間関係に嫌気がさした」とか「上司が信頼できなくなった」とか、「会社の将来に不安を感じた」と理由が圧倒的に多かったというのです。
 私のこれまでの経験によると定着率の悪い会社は必ず何らかの病にかかっているといっても言い過ぎではないでしょう。企業の場合、自覚症状が感じられにくいので病気の発見が遅くなりがちです。自覚症状が出たら取り返しのつかない状態に陥っていることが少なくありません。

社員が定着しない企業の特徴
離職率の高い企業には次のような特徴があります。

第一は採用が荒いことです。
 正しくかつ公正な手続きで採用していません。縁故と情実採用が常態化していますし何ら試験らしい試験もせずに採用しています。

第二は人事労務管理が荒いことです。
 社内は針を刺すような冷たい視線が飛び交っていますし社員相互の交流が全くありません。あなたは招かれざる人ですと言わんばかりの雰囲気が漂っています。社員一人一人の違いを把握しようとしません。単なる人数で社員を把握しているにすぎません。

第三は組織全体が陰鬱なことです。
 経営者、管理職が暗くて陰気です。新入社員が入社しても期待感を何も表明しません。希望をもって入社してきてもやる気を削がれるだけです。

第四に組織の基本ができていません。
 ビジョンや組織目標を全員で共有していません。従って仲間意識やチームワークが存在しません。また、管理職もリーダーシップを発揮して部下をマネジメントしていません。

動機づけ要因と衛生要因
 人のやる気を左右するものに以下の二つの要因があります。

 第一の動機づけ要因とは満たされれば満たされるほどやる気が出る要素のことを言います。
 第二の衛生要因は満たされたとしてもやる気にならないが満たされなければやる気を無くすという厄介な要素です。

 前者の動機づけ要因には「仕事の達成」「達成の承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」「成長」があります。衛生要因には「会社の政策」「会社の経営」「会社の監督」「対人関係」「作業条件」「給与」「社内における身分」があります。
 社員のやる気がないのは給与が低いからだと少なからず思っていいる人がいます。全く正しくも無くさりとて正しいかというとそうではありません。給与は一時的にやる気を喚起しても長く持続しないというの正しい理解でしょう。


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