論語に学ぶ人事の心得第十回 「仕事を引き継ぐ際の心得:事業の後継や引き継ぐ際には前任者の思いや行動を尊重する」

 今回の教えは親孝行の話です。孝行は孔子の思想の根幹をなす一つですが現代ビジネス風に後継者や後任者の心得として捉えてみました。
 事業の継承は会社の盛衰を握っている重要課題の一つです。どの企業にとっても後継者の育成が最重要な経営課題の一つであることには間違いありません。また、どの企業や組織でもいずれ必ず訪れるのが継承問題です。
 そして、事業の継承とまでいかなくても定期的に行われる人事異動によって事業や業務の引継ぎがあります。後継者や後任者には前の人の仕事のやり方の粗(あら)がよく見えます。そして、そのあとの行動が問われます。すぐにその見えた粗を改善と称して変えるのか、しばらくじっくりと観察して時機を待つのかです。ビジネスには正解がありませんがどう考えるべきでしょうか?
 論語の教えを参考にしながら考察してみたいと思います。

 学而1-11「子曰く、父在(いま)さば其の志を觀(み)、父沒(みまか)らば其の行(おこない)を觀(み)る。三年父の道(みち)於(を)改(あらた)むる無(な)からば、孝と謂(い)う可(べ)し。」

 「父在(いま)さば」とは、父親が存命中にはということ。其の志を觀(み)とは父親が何を目標に生きているのかよく観察する。父沒(みまか)らばとは父親が亡くなればといこと。其の行(おこない)を觀(み)るとは父親の生前の行いを思い起こすこと。三年父の道(みち於(を)改(あらた)むる無(な)からば)とは服喪中の三年間父のやり方をそのまま受け継ぐこと。孝と謂(い)う可(べ)しとはその子供は孝行ものである。

 論語の教え11:「仕事を引き継ぐ際の心得:前任者の目標や思いをよく観察し、その仕事を引き継いだ際にはやり方を焦って変えようとしてはならない」

 事業や業務を引き継いだ際には、最低一年間は観察し真因をつかめ。
 引き継いだ直後は前述したように前任者の粗(あら)が目についてとても気になります。そのこと自体は決して悪いわけではありません。新鮮な目で現実を見つめている証拠だからです。
 しかしながら、ここで焦って事態を変えようとしないことが大切です。
 何であれ物事には表層的(現象的)問題と深層的(本質的)問題があります。表面的問題に対症療法的に対応していたのでは何回も同じ問題が噴出します。いわゆる「もぐらたたき現象」が生じてしまいます。
 そこで、一定の期間現象的問題を収集し、原因分析をするのです。原因にも同じように表層的原因と本質的原因(真因)があります。表層問題ごとに表層原因がありますが本質的原因は絞り込むことが可能です。
 例えば、表層問題が三桁あったとしても本質的原因は数個に絞り込めます。そして、本質的問題の解決策をち密に計画して対処すれば所期の目的が達成できます。

 引き継がれる人と引き継ぐ人の両者に責任がある
 孝行の話に戻ります。孔子の教えでは孝行とは孝行する子供に孝行強いることではありません。親も子供から孝行されるほど徳のある生き方をしなければならないとの教えです。
ともすれば、親か子かのどちらかの問題ととらえがちですが親にも子にも徳を積む責任があるのです。
 同じように現代のビジネス社会においても事業を継承される人と継承する人との関係は共同責任です。そのどちらかが一方的に悪いのではありません。ところが自責でなく他責の気持ちが問題をこじらせることがしばしば起こります。引き継いだ人は「前任者がもっと計画的に人材育成に取り組んでくれていればわが社はさらに発展できたのにといい、引継ぎされた人はもっと有能だと思って後継者にしたのに期待外れだったといいます。
 ことの本質的原因を把握して解決行動を起こしていればこのような他責の話はないはずです。


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