論語に学ぶ人事の心得第七回 「上に立つリーダーの五つの条件」

 この論語に学ぶ人事の心得の最初に述べましたように、孔子は思想家であり政治家でありました。儒教の開祖であり、出身の魯国の大司冠に上り詰めた人でもありました。
 しかし、それだけなら歴史に名を遺した人物として評価されるだけにとどまったでしょう。何より孔子が2500年の時空をこえて、今日まで燦然と輝き続けているのは教育者として多くの弟子を育て、さらに、その弟子が弟子を育てるというように「知の大河」ともいうべき人脈を作り上げ、中国だけでなく世界に知のゲノムとなって脈々と受け継がれてきた最大の功績者であったからだと思います。
 今回取り上げる教えには孔子の教育者としての面目躍如たる側面が表れています。

 学而1-8「子曰く、君子重(おも)からざれば則ち(すなわち)威(おごそか)ならざれ。學(まな)ばば則ち固(かたくな)ならざれ。忠(まごころ)と信(まこと)主(まもり)り、友の己に如(し)かざる者を無からしめよ。過ちては、則ち改(あらた)むるに憚(はばかる)る勿れ」

 「君子」とは学而編の最初に出てきた言葉。孔子が弟子に求める目標とする人物像のことでひときわ立派な人物を指す。「重からざれば則ち威(おごそか)ならざれ」の意味は他人から重々しく見られたなら威張らないということ。「學ばば則ち固(かたくな)ならざれ」とは学問を修めれば頭が柔軟になり頑固ではなくなること。
 「忠(まごころ)と信(まこと)主(まも)り」とは自分を偽らず誠実に生きること。「友の己に如かざる者を無からしめよ」自分より劣る人を無くすことに努めること。過ちては則ち改(あらた)むるに憚(はばかる)る勿れ」間違ったときには潔く過ちを認め改めること


論語の教え8:「上に立つリーダーの五つ条件とは?」
1.リーダーは権威で部下をリードするな。
2.リーダーは常に自己啓発を怠るな。
3.リーダーは無私無欲で仕事に専念せよ。
4.リーダーは自分より劣っている他者を育成せよ
5.リーダーは過ちを素直に認め改めよ

第一の条件 リーダーは権威で部下をリードするな。
 リーダーが部下を統率することはあくまでも自分の目標や職責を果たすために部下に協力を求めることです。権威を振りかざして部下に威張り、扱使(こきつか)うことでありません。パワーハラスメントと最近になって言われ始めましたが上司の権限を振りかざして、部下に罵詈雑言を浴びせ、精神的苦痛を与えるばかりか死に至るまで追い詰めるような事件が現代産業社会において多発しています。人間としてのあるまじき行為で、まったく言語道断です。立派なリーダーほどその穏やかな人柄で気持ちよく部下の協力を引き出さなければならないとの教えです。

第二の条件 リーダーは常に自己啓発を怠るな
 リーダーが学ぶことをやめたらその組織はそこから退歩が始まります。学ばないリーダーほど知ったかぶりをし、自分のことはさておいて、部下の能力不足を挙げへつらうようになります。部下の能力不足を嘆いているリーダーがいたら、そのリーダーは自分の勉強不足と成長が止まっていること自ら言いふらしていると断定してもまず間違いないと思います。リーダーが学ばないことは本人だけでなく組織全体に影響を与えるだけに大きな問題です。自己を成長させることの責任意識を無くし学びたくないならリーダーをやめるべきです。

第三の条件 リーダーは無私無欲で仕事に専念せよ
 リーダーは私利私欲のために地位に就くのではありません。あくまでも組織の目的や目標を遂行し、達成するための責任を果たすためにリーダーの地位に就くのです。その結果、成果を得ることができれば、貢献度に応じて経済的報酬を得ることができます。経済的報酬を先に求めるのは本末転倒と言わざるを得ません。現代においても経済原則を第一動機づけ要因として考えている人が多くいますが間違いです。とりわけ、リーダーの地位に就く人はこの考えを捨てる必要があります。

第四の条件 リーダーは自分より劣っているものを育成せよ
 第二条件と関連しています。自己啓発をしているリーダーは部下を常に適材適所に配置することを念頭に置いて日常の仕事を行っています。また、部下の不足する知識や技能の発見に努めるとともに職務が求める要件とその本人の能力とのギャップを具体的に把握することで部下一人ひとりの育成計画を頭に描いて仕事を与えたり、指導を行っています。孔子が「友の己に如(し)かざる者を無からしめよ」と弟子に行っているのは能力が劣っているのがわかっていながらそのことの目をそらすのではなく手助けすれば一本の木が成長して複数になり、林となって周りに潤いを与えることになります。そして、それがやがては緑に覆われた深緑の森へと発展します。一本の木も、一人の人間も同じように成長して組織が社会になり国へと発展するのだと教えているのです。全体を良くしようと思えば、まず、身近な個人から着手せよとの教えだと受け止めましょう。

第五の条件 リーダーは過ちを素直に認め改めよ。
 リーダーといっても全能の神でありません。しばしば過ちを犯します。過ちを犯したら素直にそれを認め反省して2度と同じ過ちを犯すなという教えです。過ちを犯しても部下に責任を転嫁するリーダーもいます。そういうリーダーほど成功すると部下の成功を横取りするのです。上に立つ人の風上にも置けないリーダーがこの世の中には結構いるものです。

 私見を一つ述べさせていただきます。大きな成功を収めている人は小さな失敗を何度も繰り返しますが同じ失敗を二度としません。そして、数多く失敗したことから多くのことを学び成功につなげていることです。成功している人は失敗をしても致命的な失敗はしていません。
 一方、大きな失敗をしている人は大きな成功を何回も繰り返して実現しています。そして、成功したのと同じ理由で大きな失敗をしてしまっています。
 心当たりのある方もいるでしょう。一体、なぜだと思われますか? 考えてみて下さい。(了)


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