論語に学ぶ人事の心得第八回 「上に立つリーダー心がけ次第で企業文化や組織風土が形成される」

 曾子は学而1-4に登場した人物です。毎日三度、自分の行ったこと―仕事にあたって誠意で取り組んだだろうか? 交友で約束を破らなかっただろうか? 知り得たことを実践しただろうか?と反省していると述べたあの弟子です。姓は曾(曽)、名は參(参)、字は子輿。後世、尊称して曽子と呼ばれるようになりました。孔子と同じ魯国出身、親子二代にわたり孔子に指導を受けました。曽子は孔子より46歳年少でした。孔子の存命中は師からあまり評価されなかったようですが、孔子の没後一門のリーダー的存在になります。通常は先生という意味での子という言葉は使われないのですが曾子という尊称がつけられているのは孔子の孫・子思の師匠だったためと伝えられています。

 学而1-9「曾子(いわ)曰く、終(おわり)を愼(つつし)み、遠きを追わば、民の德厚きに歸り矣(たら)ん。」
 「終(おわり)を愼(つつし)み」とは為政者が人生の終末を大切にして亡くなった人を弔うこと。「遠きを追わば」とは先祖を敬い、祀り事をおこなうこと。「民の德厚きに歸り矣(たら)ん」とは人民は先人を大切にする為政者の徳を多として社会全体に風潮が広がってゆくこと。

 論語の教え9:「いつの時代にも、上に立つリーダーが創業の原点を忘れず、行動すれば社員はおのずとそれに従い、やがては優れた組織風土になる」

 上に立つリーダーの五つの条件に付いて前回述べました。今回の教えはリーダーの行為はやがて組織全体に浸透してゆくことを述べています。
 組織ができるとそこには必ず風土が形成されます。風土とはその構成員を拘束する価値観のことです。社会の最小単位である家には家風があります。企業には企業風土があります。地域にも、国にも文化という名の風土が存在します。風土というと空気見たいなもので目に見えないからなかなか気付き難いのですが、異なった風土の間には淡水と塩水くらいの違いがあると言ってもいいでしょう。所属する組織風土に馴染むには必至に努力しても相当の時間が求められます。
 それは風土間を移動すればよくわかることです。転職すれば前職と現職の組織風土の違いに相当強いストレスを感じます。子供の転校でいじめの問題が発生するのも風土の違いから発生していることです。すべて価値観のぶつかり合いが原因となって人間関係の軋轢となって組織全体の不協和音を発生させています。

 それでは誰が組織の風土形成者なのでしょうか?
 組織の長と名のつく人が風土を作っているのです。どんな小さな組織でもその組織のリーダーが風土すなわち価値観を作っています。家では家長である人が家風を作っています。会社では会社の最高責任者であり権威者である会長や社長といった役職者が風土形成者です。国であれば為政者です。営利、非営利を問わずこの定義が当てはまります。
 リーダー以外の個々人が風土形成者であることはまずありません。

 徳のあるリーダーこそよき風土形成者である。
 リーダーの優れた特性が自分を成長させるだけでなく、組織全体に影響していることを考えて行動する必要があります。なぜなら、組織全体の盛衰に多大の影響与えるからです。
 家の盛衰は家長が握り、企業の盛衰は会長や社長が握っています。
 古今東西の不変の真理はリーダーこそ組織の命運を握るキーマンだということです。時代とともに何を即応させ、何を堅持するか胸に刻みながら行動することが求められます。
 それができる人こそ真のリーダーだと言えると思います(了)


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