新しい人事制度をスムーズに導入し定着させるには

新しく人事制度を改革し新制度を導入定着させるには容易なことではありません。私たち正銘は上海で本格的に日系企業の人事制度改革に取り組んでから三年が経ちました。まだ三年しかたっていないのかという思いと三年もたったのかという思いが交錯しています、
というのもこの華東地域における日系企業を取り巻く経営環境がドッグイヤー的で劇的に変化しているからです。ある企業の経営者の言葉です。これまでは100人採用するのに1000人の応募者があった。ところが最近では10人採用するのに三か月もかかる。だから人を辞めさせない人事をしないといけない。同席していた人事担当者もこれからは人財育成の時代だと語っていたことが印象的でした。
これまでは大量に採用して大量にやめさせてしまう。荒っぽい労務管理がまかり通っていました。社員の定着率が50%を切る企業は珍しくありませんでした。社員を労働者とひとくくりにして集団管理するのが労務管理です。極端に言うと会社は社員の肉体的労働力をのみを必要としていたのであって社員の個別の頭脳労働を必要としていませんでした。能力という概念がそもそも存在していなかったのです。組織的に言っても財務のない企業はないのですが独立した人事担当部署がない企業がほとんどでした。労務の仕事と言えば勤怠管理か給与計算しかなかったからです。
ところが先に述べましたように地殻変動ともいうべき変化が華東地区の企業を直撃したのです。その最たるものは人件費の高騰と人材不足でした。これらの変化を先取りして人事革新に取り組んでいる企業も少なからずあります。正銘が人事管理に本格的に取り組んでからこのような企業を支援してきました。昨年度からの取り組み事例を紹介します。
正銘の人事革新支援は次の四つのステップに区分できます。
第一ステップは調査分析です。社員の意識を調査します。
第二のステップは制度企画です。最適な制度を企画します。
第三のステップは制度導入です。制度を実際に適用します。
第四ステップは制度定着です。制度を馴染ませ習慣化します。
今回取り上げますのは第三ステップと第四ステップの実際例です。昨年は第一ステップと第二ステップを取り組みました。正銘と企業が信頼関係の下、定期的な進捗会議を開催して制度企画に取り組んできました。
◆新しい人事制度導入に対する社員の反応
新しい制度の導入には社員から三つの反応が示されました。

①改革そのものに対する不安がありました。
それは改革そのものが未体験だからです。未知なことばかりだからでもあります。
人事というのは社員にとり最も身近でなことですが、反面最も不可解なことでもあるのです。
②変化への抵抗感がありました。
人間はだれしも新しいことに対する抵抗本能があります。これは保守本能の裏返しでもあります。現状に不満を持ちながらも現状維持の安住本能も頭を持ち上げてきます。一見矛盾するようですが機械でない人間らしさが表出したのでしょう。これまでのように決定事項のみを知らされ、事項を強制されることに対する本能的反発もありました。

③硬化した社員の気持ちを態度変容させる切っ掛けがありました
第一の切っ掛け「2対6対2の原則 
社員の理解と協力を得るためのワークショップを開催することになり、最初の会合で
この原則通りの社員の態度が確認できました。積極的に進める人2割、どちらでもない人6割、反対の人2割と見事理論通りに分かれました。この区分の態度の特徴をとらえて対応することにより次第に和らいできました。
第二の切っ掛け「話せばわかる」
  誰でも疎外されたり無視されたりすることを嫌います。無視されれば反発したくなります。相談を受けると真剣にその問題を考えて自分なりの解答を寄せてくれます。ワークショップはその最適な舞台となりました。
第三の切っ掛け「参画こそ最高の良薬」
  経営問題を含め人事などの改革は社員に参画を求めることは決定事項だけでなく決定後の運用を効果的に進めるうえでとても有効です。ワークショップは参画意識を醸成する最高の方式であると思われます。
 
◆2019年コンサルティング活動を通じて得た教訓

①今日の現状を変えるには過去を清算しなければならないということです。
第一は悪しき慣行の原因究明することは絶対条件です。
 第二は悪しき慣行を是正するにはその慣行が継続した同じ時間必要します。
第三は自分以外の誰かが悪いという他責意識が変化受容の足かせになっていることも修正しないといけないと思います。

②現象面の裏にある本質を見抜かなければならないことは重要です
人間はすべて意識的であれ、無意識的であれ筋書きのないドラマを演じています。事実を覆い隠すために、自分をよく見せるために演技しています。ルール違反は会社や上司がどこまで許容されるのか部下は常に試しています。それが拡大してルールと乖離が発生して慣行化し習慣化して悪しき慣行になるのです。習慣化する前に見て見ぬふりをせず断ち切ることが大切です。前任者の認めたものでもそのまま踏襲できるものとできないものがあります。理にかなったものでなければ敢然と断じて認めないよう直ちに修正すべきです。

③現場は常に経験法則の積み上げにによって検証されてゆきます
誰が正しいのかでなく何が正しいのかを考えることが多雪です。誰が正しいかで考えると情に流されます。何が正しいかで考えると理に適った行動をとることができます。それと現時点で正しいことはいつまでも続くとは限りません。時代が変わると正しいことでも正しくないことに変わります。正しいと信じて正しくない行動をとり続け企業を没落させた事例はいくつもあります。
また、机上の理屈は現場で通用しないというのも嘘です。優れた理論こそ現場で実践し経験法則にまで磨き上げることが大切なのです。

3.2019年のコンサルティング活動を通じて成果につながったこと
①ワークショップで社員を巻き込んで新制度の中身を検討できたことです
今年度の成果は何といってもワークショップで個人も集団も態度変容を実現できたことです。人は討議を通じて頭が柔軟になり創発的態度をとるように変身する。これは脱皮というよりぜい変に近いと思います。甲殻類は殻を脱皮して成長しますが昆虫はさなぎが蝶となるよう変体します。人の態度も変体はしませんが全く別人になったように変わることがあります。そのような様子を私はあえてぜい変と呼びたいと思います。

②新制度の理解が深まるとともに参画意識が格段に進んました
ワークショップの主たる目的ではありませんが、ワークショップを通じて社員の部門を超えた横のつながりが強化されました。講義形式の通常の研修ではこのように集団は進化しません。ワークショップならではの特徴です。集団凝集力が高まった何よりの証拠です。 また、自分だけでなく職場全体に浸透させる機運も高まりました。

④自社だけでは制度改革が進捗しにくいことを顧客企業に理解してもらえました
緊急でないが重要な事項が先送りされることが実務の社会で多発するが改革への取り組みであることが分かってもらえました。
緊急かつ重要事項が日々に降り注ぐ中で緊急でない業務は先送りされ、何も手が付けられないまま次年度を迎えることがどの企業でも見られることです。
社内で人事企画ができる社員がいないので問題意識はあっても具体的に着手できないままになっていたとかいくつかの理由付けがなされていますが会社自体に推進力が働かないのです。

2019年のまとめとして新制度を絵に描いた餅に終わらせず導入定着の取り組みに深耕できたことが大きな成果だったと思われます。人事制度の改革を受注したら導入定着まで支援するコンサルティング企業が少ないが正銘は定着するまで責任を持つのが特徴です。
2019年度もまさにこの取り組みを行いました。理解することと実践することは全く異なるので根気よく指導することがとても大切です。
長らく浸りきった慣習を変えることは至難の技です。しかしながら、不可能なことはなく必ず変化するという信念の問題であることがよく認識できた2019年度の活動でした。


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