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ワークショップ異業種交流について

 正銘では今年から各地域でワークショップを開催することになりました。ワークショップとは聞きなれない言葉です。
 そこで、まずワークショップについて説明しましょう。ワークショップも一つの研修方式ですが、講師が一方的に講義する研修方式ではありません。講師と受講生が双方向のコミュニケ―ションをとる体験型の研修方式を言います。
それではなぜワークショップ形式による研修を行うのでしょうか
その理由は三つあります。
第一は知識を増やす研修ではなく実務での適用力、応用能力を向上させることにあります。
第二に講師から教えられるのではなく自ら学び取る研修です。自らの鋭利な問題意識で現場での問題解決能力を高めます。
第三に参加者同士の問題意識をぶつけ合い白熱した討議絵を通じて潜在的に持っている創発意識を顕在化させます。



1.ワークショップの目的は?
① 人事担当者の人事労務問題の解決スキルを向上させる
 人事管理業務は採用、人事行政、人財育成、人事企画のどの業務も高度な専門知識や専門技能を求められています。
 人事業務を素人でも行える時代は完全に去りました。それぞれの業務の基礎から応用できるまでの知識を体得できるワークショップとします。
 セミナーに参加したり、独習するよりはケーススタディや討議を中心にした創発の学習方法のほうがはるかにスキルの修得率は高くなります。
② 人事担当者の所属企業の枠を超え視野を拡大する
 人事担当者の最も留意しなければならないリスクは内向き志向で視野が狭くなることです。いわゆるタコツボ型のマネジメントになってしまいます。こうなると社会の変化に気付かず時代遅れの人事管理を行うことになります。
 地域社会や異業種に目を向けて自社の人事管理レベルを検証し続けなければならないのです。
 社会や企業は日進月歩している。その変化に対応できなければ企業は没落するのみです。
③ 人事担当者の情報交換で労働問題未然防止する
 人事労務問題を発生させてしまったら人事労務部門の職務怠慢であると判断して間違いありません。
 人事労務問題は突如勃発することはまずありません。必ず兆候があります。突然問題が発生したと言ったとしたら、問題の兆候を当事者または人事部門が気付かなかったからです。
 人事労務問題の最大の未然防止策は悪しき慣行の芽を摘み取るか慣行が組織に根付いているときは敢然と断ち切ることです。どんな小さなことでも規則で決められたことに違反していることは是正することが大切です。そうしなければ必ず大きくなります。

2.ワークショップ人事異業種交流の狙い
① 経営視点に立った人事管理の展開方法を学習します。
 人事の基本は企業を発展させることにあります。企業を発展させる人事を進めるためには当然企業経営の理解ができなければなりません。
② 広い視野を持った人事管理の専門家を養成します。
 ともすれば、人事は内向きになりがちです。一方で人事は時間との戦いです。時代に取り残された人事諸制度ほどみじめなものはありません。
 企業を発展させるはずの人事の仕組みが企業の足枷になっていることさえあります。
③ 先見性のある人事担当者を養成します。
 人は簡単には育ちません。5年、10年と時間がかかります。人が育ったが企業が没落したのでは全く意味をなさないことです。先を読める人事担当者、常に過去より未来を見つめ続けている人事担当者をこのワークショップで育成したいと思います。
3.ワークショップの運営方法



4.ワークショップ入会の特典



「高コスト・人材不足常態化時代を迎えた日系企業」その②

 前回に続き「高コスト・人材不足常態化時代を迎えた日系企業」をテーマに取り上げたいと思います。前回は以下のことを述べました。総論として人事管理の今後の在り方を解説しました。
 第一は年功主義から能力本位人事へと発展させること。
 第二は人事管理を経営の中心に据えること。
 第三にこれまでの人事諸制度をすべて見直すこと。
次に各論として2019年は何を最優先して対応すべきかも以下の三点述べました。
① 人事管理と労務管理の悪循環を断ち切る。
② 職場風土改革に取り組む。
③ 人事専門家を養成する。

 今回のブログでは第二部とし「定着率を高め社員のやる気を刺激する人事管理制度の導入方法」について述べたいと思います。本論に入る前にこれからの日系企業が人事戦略を展開するうえで不可欠な三つのキーワードにまず触れておきたいと思います。
 その第一は平等主義から能力本位へと意識転換を図ることです。
 やってもやらなくても同じ処遇は平等主義です。
 やった人を公正に評価して処遇するのは能力本位です。
 第二のキーワードは情緒対応から合理的制度を構築することです。
 決められたルールがなく発生のつど恣意的に対応するのが情緒対応です。
 誰もが納得するルールが明確化され、誰にでもどんな状況下でも同じ仕組みで対応するのが合理的制度構築です。
 第三は衛生要因重視から動機づけ要因を重視することへの価値観の変更です。
 衛生要因とは改善や向上してもやる気に繋がらないが減少したり向上率ひくいと、やる気を無くす労働条件です。代表的な衛生要因は給与です。
 動機づけ要因とは向上すればするほどやる気に通じる労働条件のことを言います。代表的な動機づけ要因は自分に合った仕事をすることです。
ここで、社員をやる気にさせる三つの要素を述べておきましょう。
第一は自己有能感です。職場で上司・部下・同僚から信頼されあてにされている状態のことを言います。
第二は自己成長感です。担当職務を通じて自分の能力が成長していることがひしひし感じられる状態のことを言います。
第三は貢献実感です。職場の業績向上や健全な維持発展に貢献していることを活き活き感じられる状態のことをいいます。この三拍子がそろえばどんなにハードな仕事であっても疲れを感じないほどの充実感があります。

1.能力本位人事管理制度とは何か
 これからいよいよ本論に入ります。能力本位の人事諸制度をどのように構築し導入するのかについてです。
 ところで、能力本位とはどういう意味なのでしょうか? 能力主義という言葉は聞いたことがあるかもしれませんが能力本位とは初めて聞いた言葉だと思います。そのはずです。能力本位とは正銘が初めて定義づけた概念だからです。能力に人事政策や人事方針はじめとする企業の人事管理の最高価値を持たせることをいみします。これはあたかも金に貨幣の最高価値を持たせることを金本位制度というのと同じです。

2.能力本位人事管理制度の構成は?
 能力本位人事制度は原則的に四つ制度で構成されています。

第一は等級制度です。資格制度とも言います。
 すべての社員を等級に格付けします。組織の規模によりますが、通常一等級から九等級に区分されます。それぞれの等級には職能ごとに等級基準が設定されています。職能は営業、製造、管理の三職能に区分されますが、これらをさらに細かくして五職能に区分することもあります。いずれにしても大切なことは企業の実態に即しているかどうかです。
 等級の変わりにある資格名称をつけて社員を格付けする場合があります。主事とか三治とかの名称です。これを資格制度と言いますが内容においては等級制度も資格制度も全く同じです。

第二は人事評価制度です。
 人事評価制度は文字通り社員を評価する制度です。評価制度普段からに評価するのです。最後は企業の業績を向上するために評価します。
また、人事評価制度は二本柱で構成されています。第一の柱は能力評価です。第二の柱は業績評価です。なぜこのように分けているのでしょうか。それは評価結果の活用が異なるからです。能力評価は昇給と昇級に用いられます。業績評価は賞与の支給に用いられます。
 ここで人事評価制度を運用するうえで最も大切な評価の納得性について述べましょう。
納得性には評価者と被評価者の両者が納得しなければ意味がありません。被評価者は評価結果に想像以上に敏感に反応します。評価結果に納得がいかなければ即やる気に影響を与えひいては業績に悪影響を及ぼします。評価者である上司の皆さんは普段から部下の意識的観察と信頼関係の構築に努めましょう。

 第三は人事処遇制度です。
 賃金制度と賞与制度で構成されています。ほかのどの制度にもあまり関心はない人は多いが給与と賞与に関心のない人はいないでしょう。能力本位の人事処遇制度では給与と賞与の体系があります。給与体系では原則的に基本給と能力給で構成されています。等級ごとに能力給と基本給テーブルが設定されています。賞与体系では業績目標の達成度に応じて等級別に人事評価結果に基づき個人別の賞与支給額が決まります。

第四は人財育成制度です。
 能力本位の人事制度では社員の能力向上なくして成り立ちません。人財育成は思いつきや場当たり的に行うもので会ありません。継続的に体系的に重点的に行うものです。第一に、階層別、職能別能力開発プログラムが定期的に実施される必要性があります。第二にOJTプログラムの構築です。上司が職場内で行う実務能力向上プログラムです。上司には部下育成の責任がありその具体的実施策がこの職場内実務能力向上プログラムです。第三に自己啓発補助プログラムです。教育ニーズには会社サイドのニーズと社員サイドのニーズがあります。会社サイドのニーズは共通プログラムで対応できますが社員サイドのニーズは個人ごとにニーズが異なりますので共通プログラムでの対応はできません。そこで個人の教育ニーズには本人の申告により会社が審査して補助するというのがこの仕組みです。

3.能力本位人事管理制度の導入の留意点
 人事管理制度は制度設計や制度デザインは比較的容易ですが制度の導入や定着となると至難の技だと言っても言い過ぎではありません。現状を否定し新たな事態へと意識や行動を変えることは相当な個人的、組織的抵抗感が強いからです。折角、労力と経費を使って仕組みを構築したのに導入に失敗しそのままお蔵入りしたケースや組織的に抵抗感がくすぶっているのを承知しながら強権発動して導入したが一年で挫折したケースなど新しい制度が機能している事例は少ないと言えるかもしれません。そこで私は以下の三点を提案したいと思います。
提案1.自社のニーズに合った制度の構築し導入する。
   他社で成功したからわが社でも実施したいとか、今はやりだからわが社も乗り遅れないようにといった他力本願的な導入は全く意味を成しません。人事管理制度はわが社の発展性を確保するという原則に立ち返るべきです。

提案2.自社のレベルにあった制度の構築と導入
   自社の組織規模や成熟度にマッチした制度設計と導入を図るべきです。人事制度はいくらいい制度であっても、それを使いこなせなければ何の意味も持ちません。中小企業なのに大企業のような複雑な仕組みを構築してもそれが足かせとなって企業の発展を阻害するだけです。「身の程知らず」でなく、「身の丈に合った」制度を構築し導入することが絶対条件です。
提案3.労使双方が納得する制度の構築し導入すべきです。
   人事管理制度は仕組みの構築や決定するのは経営幹部ですが実際の運用は社員です。社員の納得性が得られていないのに導入を強行しても前述した通り成功がおぼつかないばかりか組織にとって害にすらなってしまいます。社員との信頼関係にひびの入るやり方はお勧めできません。じっくりと時間をかけて納得性のある導入をすれば確実に成功します。

4.能力主義人事管理制度の導入テップ
 最後に能力本位の人事管理制度の導入のステップを紹介しましょう。六ステップありますのでステップごとに述べてゆきます。

第一ステップ 現状調査
       正銘ではこの現状調査をとても大切にしています。それは導入のポイントともろ関係するからです。自社のニーズやレベルを把握するために不可欠なのがこの現状調査です。調査は二種類あります。定量調査と精密調査です。定量調査はモラールサーベイとマネジメント力調査です。精密調査はインタビュー調査になります。
第二ステップ 調査結果のフィードバック
       定量調査と精密調査結果は両方とも該当組織にフィードバックします。 
第三ステップ 制度構築工程表の提案
       現状調査を踏まえ新人事制度の構築内容とスケジュール及プロジェクトの見積もりを提案します
第四ステップ 個別制度の設計と提案及び承認
       人事四制度設計開始、まず、人事等級制度から開始。順次人事評価制度、人事処遇制度、人財育成制度を構築しその都度提案死人を受けます。
第五ステップ 新制度への移行社内説明会開催
       前制度設計完了し承認を受けた後社内説明会を開催します。 
第六ステップ 新制度移行支援 
       人事評価を先行させます。新等級格付けには評価結果が不可欠だからです。
       制度導入前に人事評価者訓練を実施します。また、実験的人事評価を行う場合もあります。


「高コスト・人材不足常態化時代を迎えた日系企業」(その①)

■はじめに―この試練を乗り切る人事管理はいかにあるべきか
 多くの皆様がご高承の通り日系企業を取り巻く経営及び人事環境は激変しています。
 毎年JETRO(日本貿易振興機構)が日系企業の経営問題を調査していますが、それによりますと第一位は賃金の上昇で、第二位は調達コストの上昇、第三位は競争相手の台頭、第四位は品質管理、第五位は環境規制でした。
 とりわけ、人件費の上昇を指摘したのは回答企業の75%にも及んでいます。品質管理も社員の質と大いに巻毛がありますから経営問題の上位五位に人事問題が二つも入っています。
 直面する人事問題を私たちはどのように受け止めるべきでしょうか。私はこの試練はすべての企業に天(経営環境)が平等に与えた試練であり、新たな企業革新を生む機会だと理解すべきだと考えます。企業を強くするチャンスなのです。逃げずに敢然と立ち向かうことで勝機は生まれます。人事管理面では人事革新時代の到来を意味します。
 人事革新時代に真っ先に注力することは以下の三点です。
 第一は年功主義から能力本位人事へと発展させること。
 正銘では能力主義という考え方ではなく一歩さらに踏み込んで能力本位という人事管理上の新たな価値観を提唱しています。最高の貨幣価値を持たせることを金本位と言いますが人事管理上の最高価値を能力に置くことを意図してどこの企業よりも先駆けてこの言葉を導入しました。
 第二は人事管理を経営の中心に据えること。
 このことを正銘では「経営人事」と称しています。経営人事を進めるには人事専門部署の設置と人事専門家の配置が絶対条件です。素人が片手間に人事を行うほど企業内で発生する人事問題は簡単ではありません。アマチュアの時代は完全に去り、プロが人事をする時代を迎えました。
 第三にこれまでの人事諸制度をすべて見直す。
 人事諸制度は時の経過とともに陳腐化しています。10年も前の創業時に制定した人事諸規則を何も更新せずそのまま使用している企業があります。問題はその企業の実態と決められた規則が一致しているかどうかです。規則は規則で別の存在になったいて実態と会っていないケースはいわゆる悪しき慣行として規則化されています。これらをすべて清算する必要があります。

1.これからのすべての企業が準備すべき人事管理施策は何か?
1.1 2019年は何を最優先して対応すべきでしょうか。
私は以下の三点を特にあげておきたいと思います。
① 人事管理と労務管理の悪循環を断ち切る。
 人事管理は一人ひとりの社員を個別管理することであり、労務管理は社員を集団管理することです。労務管理では社員を労働力としてしかみなしません。社員の肉体的労働力を期待するだけです。従いまして社員の能力が向上することは期待しません。
 一方、人事管理は真逆の管理方法です。社員一人ひとりの違いを把握することが人事管理の出発点です。一人人の能力や適性を把握して適材適所の配置をすることが大原則です。正銘の調査では能力の向上を期待しない社員は誰もいないと言っていいと思います。
② 職場風土改革に取り組む。
 前項は個人の能力の問題ですが、この職場風土の改革は組織能力の向上を意味しています、会社の組織では個人がいくら意欲的であっても職場風土が社員の意欲を削ぐようだったらいい成果を出すことができません。むしろ、この組織能力が強いか弱いかで社員のやる気を決めることになります。また、いい成果が出せるかどうかも決まります。
 それではこの実態が見えにくい職場風土をどのように把握し改革に取り組むのでしょうか。問題解決は原因が特定できれば解決できたも同然だと言われます。職場風土改革に最もふさわしい言葉です。職場風土を決めているのはその職場の二人の人物です。一人は会社から正式に任命された職位者です。部長とか課長とか係長といったように長という名前が付く人たちです。もう一人は、会社から正式に任命されたわけでもなのにその職場で隠然たる影響力を持っているひとです。この二人が特定できこの人たちがどのような心理状態で毎日の職場で働いているのかがわかれば必ず改革策が見えてきます。
③人事専門家を養成する。
 人事専門家を必要性については記述しました。どのように育成するのかも5月第三週ブログで取り上げましたのでここではポイント述べます。
①まず採用業務を担当する。
 人事担当者候補が決まったらまず何を担当させるかについてですが私は採用業務を第一にさせることが重要だと思います。その理由の第一は社員を大切にする心構えを醸成できるからです。とりわけ人材不足になりますとやっと採用できた人だから大切に育てようとする気持ちが湧いてきます。
 第二は「採用は人事業務の出発点」です。「人事は採用に始まり採用に終わる」という言葉があるくらいです。また、人事業務の中で最も難しいのも採用業務です。難しい採用業務で多くの人々に会い人を見る目を養います。
②次に人財育成業務を担当する。
 採用して入社してきた人をどう育てていくかを企画するのが人財育成業務です。入社後のオリエンテーションから始まり階層別教育プログラム、職能別能力開発プログラムへと展開してゆきます。
 この間に教育技法、教授法なども学習します。
③三番目に人事行政部門を担当します。
 人事処遇と人材配置を担当する部門です。人と人の組み合わせを考えるのがこの部門の仕事になります。人事担当者の最高の技術の一つがこの組み合わせです。組織が活性化するのも萎えるのもこの組み合わせ次第だからです。
④最後が人事企画部門を担当することになります。
 採用、能力開発、人事行政の各職能で実務経験をした後で人事制度企画や要員計画、組織制度企画を担当します。

 人事担当者は知識が増えるだけでは務まりません。必ず実務経験を積まなければなりません。人事担当者の育成は知識教育と経験教育を総動員することが必要です。つまり、キャリアプログラムを通じた人財育成計画が不可欠です。

 以下次回に2019年正銘からの提言と第二部「定着率を高め社員のやる気を刺激する人事管理制度の導入方法」を取り上げます。


人はなぜ変わらない(変われ)ないのか? 人はどうすれば変わる(変われる)のか?

1初めに―人事制度の改革で思うこと
 お客様の要望にいかに応えられるかを悩みながらも懸命にご満足のゆくサービスが届けれれるように日夜奮闘しているのが今日この頃です。今回のブログでは正銘が取り組んでいる新しく提案した制度がるいかにすれば定着できるかを取り上げてみたいと思います。
 最近、お客様に新人事制度の提案をする機会がありました。今までにない新しい人事制度企画でした。会社の実態を調査し、顧客の要望に沿って人事制度を企画したのですが社員の反応は様々でした。
 この会社だけでなく多くの会社ではせっかく新しい制度を作っても社員の反対で導入できなかったり、経営者自身も導入することに不安を感じ自信がなくお蔵入りになったケースが珍しくありません。
 それぞれの会社には固有の理由や事情があるものと思われますが、社員の気持ちを理解できずに会社サイドの理由だけで一方的に導入しようとするから社員から反発を受け導入がとん挫するか、または導入したとしても定着せず途中で古い制度に戻ってしまう場合が多いのです。
人はなぜ変わらなければならないのでしょうか
 そこで私は以下の命題を考えてみました。「なぜ人は変わらない(変われない)のか」さらに、人はなぜ変わらなければいけないのかということです。
 まず、なぜ人は変わらなければならないのかについて述べたいと思います。企業は環境適応業だといわれます。ご承知の通りどんな企業でも世の中の変化に適応できなければ存続できません。企業が存続できなければ社員もその企業の構成員であることができないことは言うまでもありません。企業も人も生きるために変わらなければならないのです。
 変化を宿命づけられているにもかかわらず組織も人もなかなか変わることができないのが現実です。なぜでしょうか。
私は二つの理由がそこに存在すると思っています。
第一の理由は組織や職場に「変わりたくない」「変われない」という空気が漂っているからです。専門用語でこのことを集団規範と呼んでいます。集団規範は明文化されている規則だけでなく目に見えない暗黙の合意された内容を含みます。この集団規範が変化を積極的に受け入れようとしているのかそうでないのかで組織全体の変化適応力が決まります。集団規範が変化を好まない場合には個人でいくら変化しようとしても限界があります。ではこの空気は誰が作り出しているのでしょうか。公式、非公式に関係なくその組織に最も影響力を行使できる人が空気を作っているのです。空気を作っている人が変化適応力があるかどうかが変化に敏感な組織が維持できるかどうか決まります。
第二に個人の変化適応力を阻害しているのは自己の能力の可能性に限界を感じているからです。これはある意味個人の思い込みや誤解に起因することが多く確たる根拠があって成長がストップしたわけではないのです。人の潜在能力は無限です。井戸水と同じように汲めば汲むほど水は湧いてきます。水をくむ努力を怠って自己の可能性を悲観していることが多いことも事実です。

2人は環境の動物である
2.1B=F(P E)
 上記は行動科学の創始者と言われるアメリカ人のクルト・レヴィンの考案した方程式です。
人間のB:behaibior(行為)はP:personality(人格)とE:environmennt(環境)で決まるというものです。
よくよく考えてみますと人は両親のDNAを受け継いでこの世に生まれますが育った家庭、育った社会、学んだ学校、働いた組織で人格が形成されます。
 つまり、環境がその人の人生を決めるといっても言い過ぎではありません。

3なぜ人は行動を変えるのか?
 人の行動や考え方を変えるのはなかなか難しいことだと理解していただけたかと思いますが、それでも人はある場面に遭遇した時には行動を変えることができます。以下その場面をシーンごとに述べてみましょう。
3.1恐怖感を感じた時
 恐怖の度合いが強ければ強いほど行動変容が行われます。恐怖感で行動変容を求めることは異常事態、緊急事態が発生した時には効果的ですが、何もない普通の時にはには向きません。
 創業時のように組織の成熟度が低かったり、業績が低迷して従業員が疑心暗鬼になり、理性的な情報を受け入れられない場合などでは効果があります。従業員のレベルが低く、ルール違反が常態化しているような場合にも適用すると効果的です。

3.2伝達者が信頼できる時
 聞こえていること、聞いて理解すること、聴いて理解して、行動を変えることは同一線上にはありません。報連相(報告・連絡・相談)つまりコミュニケーションはお互いの信頼関係を作ることから始めましょう。部下は信頼していない上司の話は聞いて理解はしても行動しません。理解することと行動することは全くの別物であることをご理解ください。同じように、信頼していない上司の話はあまり聞こうとしません。部下が上司を信頼する要素は上司の人間性と高い専門能力であることを忘れないでほしいものです。

3.3集団決定する時
 集団決定に参加することほど個人の態度変容を強く刺激する要素はありません。
 集団決定とは目標を共有する組織の中で個々人の目標を自己決定することを言います。
 つまり、組織構成員全員が賛同して決めたことに対しては全面的に従うということです。押し付けられて決めたのではなく、自らの意思で決定に主体的に参画できたとき、決定に自己の意見を反映できたとき、意見の一致度が高ければ高いほど実践度が増大します。
集団決定をした時に発生する効果の三要因は以下の通りです。
①集団成員が自らの手で集団規範を作り出せる
②集団討議による意見の一致ができる
③自己決定できる

3.4集団圧力を感じる時
 これまでの生活が一変するとき感じる圧迫感です。例えば、学校生活おえて職業生活に入った時に拘束観がこれにあたります。これほど強いインパクトはありませんが転職したときに新しい組織に転入したばかりの時に感じる組織の空気を察した時などもこれにあたります。上司や先輩など他人の目(冷たい目線)を意識する時なども集団圧力と考えていいでしょう。自らの手で集団規範を作り出せるとより集団規範を体感することができます。

4人の行動は段階を経て変わる
 人の行動はある事態に遭遇して一気に変わるのではありません。以下のような心理的プロセスをたどって変わります。

4.1第一段階 抵抗の段階
 人は誰でも変化には基本的に保守的です。新たな変化には心理的にも物理的にも抵抗します。自我意識の強い人ほど抵抗感は強いのです。この段階では態度変容を求めすぎないことが大切です。変化を受け入れるよう強圧的態度をとるとかえって反発が強くなります。これまでの人生で積み上げてきた価値観や認識や行動を固守しようと一生懸命になります。一方で、不安はあまり生じておらず、精神的には安定しています。

4.2第二段階 変容準備の段階
 次第に、新しい価値や基準について認識や経験が増えるにつれて抵抗心が和らいできます。捨てるもの(古い価値)と得るもの(新しい価値)を比較しながら新しい価値が理解しつつあるのがこの段階です。これまでの態度を強化する気持ちと変化させることを受け入れ準備する段階です。このまま信用していいものかと不安が高まり始めるのもこの段階です。信頼関係を築き上げることに注力してください。

4.3第三段階 不安定不均衡の段階
 過去にこだわるのか新しい事態にむかっていいのか振り子のように激しく精神的に揺れる時期です。基本的に新しい価値を受け入れることと拒否することと均衡する心理状態になります。よほどの確信があれば別ですが、意志決定するときには決める時にも揺れますが決めた後も揺れます。車や家などの高価な買い物したときにおこる心理状態と同じです。
 これまでの認識や行動が新しい認識と行動とが最大の不均衡を示す段階です。受け入れるのか拒否するのか不安が最高潮に達します。その人の価値観の中核にある概念と関係が強ければ強いほど不安が増加すると共に変容に時間がかかります。不安の状態が長く続くと行動変容も遅くなるので長引かせないことがポイントです。

4.4第四段階 再体制下の段階
 激しい心理的振り子の状態が続いた後、認知要素、感情要素、行為要素が均衡を始めます。
 心理的に意志決定後は、自らの決定を否定するより肯定する心理状態になる(合理化)ことを意味しています。新しい認識や行動へと移行する段階になります。この段階になりますと不安が減少傾向を示すようになります。

4.5第五段階 安泰強化の段階
 新しい価値を納得し、自らの意思で実践につなげたような行動を始めます。認知要素、感情要素が完全にクリアされたことになるので実践行動につなげるように導入する必要があります。新しい認識や行動を強化してゆく段階に到達しました。不安傾向が減少し確実に安定化に向かって行きます。実践行動をすればするほど確信の要素が強くなり変容が持続します。

5まとめ
 以上のようなプロセスをたどってやっと人は新しい制度や施策を受け入れるようになります。ある意味面倒な手間暇のかかる根気のいるプロセスですが、ここが人が人であるゆえんであることを理解しなければなりません。
 長い間培ってきた人の価値観は簡単には変わらないことを認識していただくと同時に人の価値観や態度は必ず変わるのだという確信も合わせてもっていただくとよいと思います。


どうすれば人事担当者を育成することができるか

 今、華東地区の日系企業を取り巻く人事環境が激変しています。
これまでにこのブログで何度も取り上げましたので多くの皆さんは察していたけるものと思います。
 人事管理上の変化は以下の三つに集約できます、その第一は人件費の高騰であり、第二は人材不足であり、第三には人財育成です。
 これらを専門的に担当する部署が必要なのですが人事部門の無い企業が圧倒的に多いように思われます。よしんば、あったとしても管理部門や総務部門のなかに人事担当者が配置されていますが、仕事の中身はというと勤怠管理や給与計算などの事務作業をしているにすぎません。
 今後、これらの人事環境の変化に即応し企業を発展させるには人事管理を専門とする部署の設置と専門家の配置が不可欠です。
 専門部署はすぐ設置できますが、問題はその責任を担うことができる人事担当者をどう確保するかです。いくつかの選択肢があります。外部から人財会社を通じて中途採用する場合と内部で発掘する場合です。いずれにしてもわが社の人事担当者としての適性をどう見抜くかがポイントになります。
 有名企業で人事部門の仕事をしていたからすぐわが社の人事部門で役に立つかというとそうではありません。人事の業務には大きく次の五つに区分できます、採用、人事企画、人事行政、人財育成、人事処遇です。少なくても人事部長職を担当するにはこれらのすべてに精通していなければなりません。人事担当者であれば二つ以上の業務に精通していなければなりません。精通するというのは少なくとも3年以上の実務経験を有し発生する人事管理諸問題を的確に解決できることを意味しています。
 それでは人事担当者に必要な資質や能力について触れておきましょう。

1.人事担当者にはどんな資質が必要なのでしょうか。
 仮にほかの能力がどんなに優れていたとしても下記の資質をどれか一つ欠くことがあったとしたら人事部門に配置してはなりません。

 第一に虚構性のない人です。虚構性とはどんな性格の人を言うのでしょうか。虚構性とは嘘をつくというのではなく自分をよく見せようとする性格の人です。例えばこれまでにあなたは一度も嘘をついたことがないという質問に肯定的な回答をする人のことを言います。

 第二に何ごとにも対しても逃げない人です。つまり、責任感の旺盛な人です。部下の責任を自分の責任と判断できる人でなければなりません。周りに責任をかぶせる他責の人は人事担当者に向きません。

 第三に忍耐強い人です。すぐ感情的になる人や切れる人は人事の仕事には向いていません。感情的な人に煽られて自分も感情的になったり、各方面からの苦情に対して冷静に受け止められることが大切です。感情をコントロールできる人が人事担当者には必要です。

 以上が性格面ですが能力面ではどうでしょうか。

2.人事担当者に求められる能力とは何でしょうか

 第一は個人と組織に強い関心があること
 人と組織に関心のない人には人事担当者は務まりません。人事は個々人の違いを理解することから始まります。一人ひとりが過去をどのように過ごし、今をどのように生きているのか、さらに未来に向かって自分をどのように成長させようとしているのかを察知できることが人事担当の基本的能力です。また、一人ひとりの個人に対して最大の影響を与えるのも組織です。個人能力と組織能力を両面で理解する必要があります。

 第二は初心に返って「考える力」を磨くことです。
 人事の問題は一つとして同じ問題が発生しません、過去起こった問題を同一視して安易に当てはめようしてもできません。人事担当者は問題の発生のつど初めて起こった問題だと初心に帰って考えて対処することを怠ってはなりません。この考える癖をつけることが人事担当者としての成長にも繋がります。

 第三は常に「先見性」をもって業務に取り組むことです。
 先見性とは将来を洞察することですが、簡単に言えば将来どうありたいのか、あるいはどうしたいのかを常に考えながら仕事をすることです。今をどうしたのかというよりありたい姿から現在を見つめてより早く到達できる方策を考えます。人財は育てるのに時間がかかります。会社の将来の必要人材を予見して今どうすべきか対処すのが優れた人事担当者のあるべき姿です。また、優れた人事担当者ほど長期的に将来を洞察することができます。
 さて、ここまでで、人事担当者のプロフィールをイメージしていただけたでしょうか。それではこのような人事担当者をどう育てるかということになりますが資質に関しては育成というより選別の問題です。つまり、会社の外部に求めるのかあるいは社内登用するのかのどちらかになります。
 結論から申して私は社内登用を進めます。理由は次の二点です。
 第一の理由は資質を見抜くのは実に困難であるからです。私は多くの採用の失敗例を見てきていますし私自身も失敗しました。社内登用であれば人事の知識は無くても資質に関しては観察する期間はたっぷりあったはずだかです。まず、見間違うことはないでしょう。たった数時間の面接で判断するより確かな情報に基づいて判断することができます、
 第二の理由は人事に業務は会社の歴史や企業文化、そして組織風土とともにあります。途中入社してこれらを体得するには1年以上かかるかもしれません。人事本来の仕事ができるようになるまでに相当な時間を要します。余裕のある会社は別として通常の場合には待てません。

 次に人事担当者の能力育成について述べます。
① まず採用業務を担当する。
 人事担当者候補が決まったらまず何を担当させるかについてですが私は採用業務を第一にさせることが重要だと思います。
 その理由の第一は社員を大切にする心構えを醸成できるからです。とりわけ人材不足になりますとやっと採用できた人だから大切に育てようとする気持ちが湧いてきます。
 第二は「採用は人事業務の出発点」です。人事は採用に始まり採用に終わるという言葉があるくらいです。また、人事業務の中で最も難しいのも採用業務です。難しい採用業務で多くの人々に会い人を見る目を養います。

② 次に人財育成業務を担当する。
 採用して入社してきた人をどう育てていくかを企画するのが人財育成業務です。入社後のオリエンテーションから始まり階層別教育プログラム、職能別能力開発プログラムへと展開してゆきます。
 この間に教育技法、教授法なども学習します。

③ 三番目に人事行政部門を担当します。
 人事処遇と人材配置を担当する部門です。人と人の組み合わせを考えるのがこの部門の仕事になります。人事担当者の最高の技術の一つがこの組み合わせです。組織が活性化するのも萎えるのもこの組み合わせ次第だからです。

④ 最後が人事企画部門を担当することになります。
 採用、能力開発、人事行政の各職能で実務経験をした後で人事制度企画や要員計画、組織制度企画を担当します。

 人事担当者は知識が増えるだけでは務まりません。必ず実務経験を積まなければなりません。人事担当者の育成は知識教育と経験教育を総動員することが必要です。つまり、キャリアプログラムを通じた人財育成計画が不可欠です。


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