論語に学ぶ人事の心得第68回 「人生の安住の地は仁(じん)の境地を切り開くことだ」

孔子像:Bing

 孔子は逆境の人でした。出自も恵まれたものではありませんでした。ここで再び孔子の生涯を振り返ってみましょう。
 紀元前552年に、現在の山東省曲阜(きょくふ)で鄹邑大夫の次男として生まれました。父は既に 70歳を超えていました。名は叔梁紇(しゅくりょうこつ)または孔紇(こうこつ)とも言いました。母は身分の低い16歳の巫女であった顔徴在(がんちょうざい)です。
 父は三桓氏のうち比較的弱い孟孫氏に仕える軍人戦士で、たびたびの戦闘で武勲をたてていました。沈着な判断をし、また腕力に優れたと伝えられています。
 また、『史記』には、叔梁紇が顔氏の娘との不正規な関係から孔子を生んだと記されています。出生に関しては諸説あるものの、いずれにしても決して貴い身分では無かったようです。
孔子は私生児ではありませんでしたが、嫡子ではなく庶子であったようです、孔子はのちに「吾少(わか)くして賎しかりき、故に鄙事に多能なり」と語っています。
 孔子は3歳の時に父の叔梁紇を失い、母の顔徴在とともに曲阜の街へと移住しました。17歳の時に母も失い、孤児として育ちながらも勉強に励んで礼学を修めました。しかし、成長してから、どのようにして礼学を学んだのかは分かっていません。
 そのためか、礼学の大家を名乗って国祖の周公旦を祭る大廟に入ったときには、逆にあれは何か、これは何かと聞きまわるなど、知識にあやふやな面も見せているが、細かく確認することこそこれが礼である(八佾3-15)との説もあります。


 弟子の子貢はのちに「夫子はいずくにか学ばざらん。しかも何の常の師かあらん。(先生はどこでも誰にでも学ばれた。誰か特定の師について学問されたのではない)」(子張篇)と答えました。
 孔子の生活は、明るく楽しいものでは在りませんでした。姉もたくさんいて、足の不自由な兄もいました。
 紀元前538年に15歳の孔丘が学に志しています。
 紀元前534年、孔子19歳のときに宋の幵官(けんかん)氏と結婚します。翌年、子の孔鯉(字は伯魚)が誕生。
 紀元前525年、28歳の孔子はこの頃までに魯に仕官し、まず倉庫を管理する委吏に、次に牧場を管理する乗田となりました。
 ここまで幼少時代からの孔子の生い立ちを振り返りました。青年時代からの生い立ちは後述することとしますが、儒教を開祖し現代にまでつづく大思想家ですからよほどの天才なのではないかと思われがちですが、ごく普通に生まれ、逆境に鍛えに鍛え抜かれて王道を歩むこととの大切さを悟ったのだと思います。
 里仁篇第4―2「子曰く、不仁者(ふじんしゃ)は以(もっ)て久しく約(やく)に処(よ)るべからず。以(もっ)て長く楽しきに処(よ)るべからず。仁者(じんしゃ)は仁に安(やす)んじ、知者は仁を利とす」
 師は言われた。「不仁者(ふじんしゃ)は以(もっ)て久しく約(やく)に処(よ)るべからず」とは仁徳を持たないものは長らく困窮した生活に耐えられず、「以(もっ)て長く楽しきに処(よ)るべからず」とは長らく豊かな生活を送ることもできない。「仁者(じんしゃ)は仁に安(やす)んじ、知者は仁を利とす」とは仁徳を体得した人は仁の境地を切り開き、そこに落ち着く。優れた知性を持つ人は仁を自分の成長に役立たせる

 論語の教え68:「心の豊かさを持ちなさい。真の豊かさは物質的豊かさでない。心の豊かさだ」

 ◆不仁者になってはいけない。ながらく貧乏な生活を続けると良からぬ行為に走り、長らく豊かな生活を続ければ傲慢になる。


 不仁者とは仁者の反対の人です。人をいつくしみ優しさを以て人に対応できない人のことを言います。経済的に貧しい時には、豊かになるために手段を選びません。そして、必死になってつかみ取った富を獲得した暁には、それを減らさないように執心し、さらにその富を増やすために、人々を苦しめます。物質的貧富はその人の徳によって毒にもなり薬にもなるのです。孔子は仁の追求に生涯をささげた人でした。多くの弟子に仁者としての生き方を説いてきました。3000人ともいわれる弟子が慕い続けたのも孔子の一貫した仁者としての生き方を目の当たりにしてぶれなかったことではないかと思われます。
 ◆物質的豊かさを追求すればするほど安住の地が無くなり不安が高じてくる。
 通常、人は物質的に豊かになると、蓄積した財産を減らさないための行為に走ると言われています。夜、寝ても財産を減らしてしまう夢を見、目が覚めても、どうすれば財産を減らさないようにできるかを考えます。寝ても覚めても財をめぐる不安が高じてくるのです。不仁者になれば、本項で取り上げたように、徳を鍛錬するのではなく、現状に耐えられなくなります。
そんな人生では幸せな人生と言えません。
 心の豊かさを追求する結果として物質的豊かさが実現できれば真の豊かさの実現になるのではないでしょうか。

 ◆他人と自己を比較することを人生の生きる目標にしてはならない。人生の目標はあくまでも自己を鍛錬することである。
 人生は他人の生きざまを比較しながら送るのではありません。あなたの人生はあなたが責任を以て豊かな生活を実現することです。他人との比較の中で優越感を感じたり、劣等感を感じるのはもうやめにしませんか。
 それらには何の意味もないからでです。そんな暇があったら、自分を磨く努力をすることです。見聞を広めるために旅行することです。人生は旅に例えられることがよくあります。未知との出会いが人生を豊かにしてくれます。孔子も弟子とともに知見を広めるためのたびを生涯つづけました。(了)


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