論語に学ぶ人事の心得第52回 「先祖を祭るには、そこに先祖がいるように、気持ちを込めて執り行うことが大切だ」

孔子像 出典:Bing

 多くの皆様はお解りのことと思いますが神を祭るとは先祖を敬い法事をとりおこなうことです。孔子が生きた時代には、まだ、中国に仏教が伝わっておりません。古代のしきたりに沿って先祖を敬う儀式が行われていたのです。因みに仏教では先祖を敬うことを年忌と言いますね。
 ところで、孔子は祭りを行う者の心得として礼に適うことを強く意識しておりました。
 本編八佾(はちいつ)で何回も取り上げられているように分を弁(わきま)えない祭祀の行為には誰であっても孔子は厳しく批判しています。それが魯国の三桓であった季孫氏に対しても同じです。 
また、祭祀が華美に走ることに対しても、孔子は何度も批判しています。祭祀を行うことは権勢を誇ることではないからです。誠心誠意、心を込めて先祖を敬うことが祭祀の目的であることを説いたのでした。
 この時代は社会的な規範らしいものは確立されていません。時の権力者の価値観が社会的規範として流布されました。つまり王様の考えが社会のルールになっていた時代です。そのような中にあって、孔子は儒教を打ち立て、「五倫五常」を人の生き方の規範として確立しました。歴史に「たら」はないのですが、孔子がこの世にいなかったら、中国のみならず世界の歴史はすっかり変わったものになったに違いありません。改めて孔子の偉大さに思いを馳せたいと思います。

 八佾篇第3―12「祭(まつ)ること在(いま)すが如(ごと)くす。神を祭ること神在(いま)すが如くせり。子曰く、吾れ祭りに與(あず)からざれば、祭りて祭らざるが如し」

 「祭(まつ)ること在(いま)すが如(ごと)くす」とは、師は先祖を祭る際には、先祖がそこにいるようにふるまわれた。「神を祭ること神在(いま)すが如くせり」とは、神様がそこにおられるようにふるまわれた。師は言われた。「吾れ祭りに與(あず)からざれば、祭りて祭らざるが如し」とは、私は先祖を祭る行事に参加できないときは、先祖に会わなかったとうな気がしてならない。

 論語の教え52: 「心のこもらない形式的な儀式をいかに盛大に行おうとも人々を惹きつけない」

◆法人の行事や儀式は何のためにやるのか
 どんな企業や組織でも創業もしくは設立記念の行事が行われます。また、周年記念行事もあります。これらは何のために行われるのでしょうか。
 私は二つの目的があると思います。その第一はこれまで支えてくれた顧客やパートナーへの感謝の気持ちを表すためだと思います。第二はお客様やパートナーに感謝の意を表しつつ、全社員でそれを共有し、次の発展に向けて全社員とともに決意を固める場であると思います。記念行事にひっかけて商売のネタに利用している企業を見たことがあります。このような企業は自己中心的で動機が不純と言わざるをえないでしょう。誰も共感しませんし協力をしないと思われます。
 法人であれ、個人であれ感謝の気持ちを忘れたら、そこから衰退がはじまります。日本を代表するある電機メーカーの創業者が存命中に創業60周年を迎えました。たった三人で始めた町工場が60年後には10万人を擁する大企業へと発展していました。集まった7000人の経営幹部を前にして感謝の言葉を述べました。そして、腰を90度に曲げ三回も最敬礼をしたのです。参会者から万雷の拍手が沸き起こりました。


地震災害 出典:Bing

◆リーダーの最大の責務はリスクを予知することである
 「災害は忘れたころにやってくる」といったのは物理学者であり文豪でもあった寺田寅彦の言葉で
す。企業経営では災害や事故を避けることはできません。寺田の言葉はどれだけ悲惨な災害に遭遇しても、人は忘れ去って、次の災害に会った時の備えを怠ってしまいます。それに対する警告だと思います。どんな組織でも災害や事故で犠牲になった人々を手厚く葬ります。記念碑を創り、多くの人々の心に深く刻まれるように儀式も行われます。それは災害や事故を風化させないためです。そして、二度と同じ犠牲を出さないために備えるるのです。
 以前にも取り上げたことのあるアメリカの著名な経営学者ピーター・F・ドラッカーは「リーダーの最大の責務はリスクを予知することである」と言っています。そして、「それはリスクを避けるためでなく、備えるためである」とも言っています。
 経営者は社会から人とモノとお金を預かり経営資産として運用を任されています。これらを守り切ることこそ経営者の責任であるというのです。ドラッカーは企業の目的は「顧客を創造することだ」と提唱して利益を上げるために血眼になっている世界中の経営者に目的をはき違えるなと覚醒させました。同じように社会から預かった経営資産を守ることが経営者の責任であると喝破したのも心に沁みる卓見の一つだと思います。

◆功労者を顕彰するする意味は?
 国家であれ、企業であれ多大な貢献をした人に感謝の気持ちを込めて栄誉を称えます。その意味するところは何でしょうか?
 歴史上、どの国においても神格化された軍人は何人も出ています。それは軍国主義を鼓舞するために行われました。それは必ずしも褒められたことではありません。
 本来は世界最高の権威を持っているノーベル賞に代表されるように人類の進歩に貢献した人々を顕彰すべきものです。国家の政策とはいえ、人を数多く殺した人を顕彰するよりは人の命を数多く救った人を顕彰することに異議ある人は誰もいないはずです。
 冒頭に述べたようにそれぞれの国には顕彰制度がありますが世界のすべての国で人を殺すことにより顕彰されることのない世界が訪れることを願わずにはいられません。(了)


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