論語に学ぶ人事の心得第51回 「微妙な問題に対しては、すべて本音で応えるのではなく、さらりと躱(かわ)す術(すべ)を持つ」

孔子像 出典:Bing

 本項は前項からの続きです。前項で述べた様に、孔子は魯の国の禘(てい)の大祭に疑念がありました。だから、魂を呼び込む灌(かん)の儀式が終わると後は参加したくないと言っているのです。
なぜ、孔子がこのような大祭に疑念を抱いたのか明確な理由が述べられていません。そのわけを究明することがこのブログの目的ではありませんので話を前に進めたいと思います。
 しかし、本項ではある人の質問に対してはあっさりと「知らない」と答えています。孔子は大抵のことに対してはその質問の意図を確かめるなどして、質問者の意向に沿った答えや示唆を与えています。常にまじめな対応をしてきました。この度のやり取りを見ていますと、そっけないのです。その裏にあるものは何だろうと思いたくなります。
 本項の質問に対しては、質問の意図も確認せず、質問に対して正面から答えていません。  
つまり、孔子らしくなく本音を明らかにしていないのです。孔子は正直に本当のことを言えば社会に与える影響が大きすぎると考えたかもしれません。

 八佾篇第3―11「或(ある)ひと禘(てい)の說(せつ)を問ふ。子曰(いわ)く、知らざる也(なり)。其の說(せつ)を知る者の天下(てんか)に於けるや、其(そ)れ諸(こ)れ斯(こ)に示(み)が如(ごと)きか」と。其の掌(たなごころ)を指(さ)す。」

 「或(ある)ひと禘(てい)の說(せつ)を問ふ」とはある人が孔子に禘(てい)つまり君主が先祖を祭る大祭の意味などについて説明を求めた。「子曰(いわ)く、知らざる也(なり))とは師は知りませんと答えた。「其の說(せつ)を知る者の天下(てんか)に於けるや、其(そ)れ諸(こ)れ斯(こ)に示(み)が如(ごと)きか」」とはその意味を分かる人は天下のことを何もかも手のひらにまとめてはっきり見ることができるでしょう。「其の掌(たなごころ)を指(さ)す」とは自分の手のひらを指さした。


 論語の教え51: 「この世の中、すべて正論が通用するとは限らない」

 ◆信頼関係を築くには本音が不可欠、そうでなければ建前を押し通せ。
 「信頼関係」とはお互いに信じ、頼りあえる間柄のことをいいます。それには何事も隠さず本当のことが言い合える間柄でもあります。また、お互いに相手から欠点や弱みを指摘されてもいちいち腹を立てないことです。だから、本当のことがお互い言えます。言い換えれば、ほんとうのことを言い合える仲が本音を言い合える関係と置き換えられます。


出典:Bing

 また、信頼関係は、どんな人間関係でも築くことができます。基本は家族関係になりますが、会社の同僚や上司の信頼関係を育むことができます。私はむしろ会社の中での信頼関係を築くことが家族関係以上に大切なことだと思っています。会社では、血族的なつながりではありませんが、目的や目標を共有する共同体に所属するからです。
 良好な信頼関係があれば、どんな良いことがあるのでしょうか。たとえば、職場の同僚や上司と信頼関係が築けていれば、士気の高い組織や職場が築けるでしょうし、お互いに励まし合うことで、きっといい成果があげられると思います。
 本音が言い合える関係でなければ信頼関係があるとは言えません。ある会社では本音で言い合える関係を創ろうと上司からの呼びかけがあり、それを信じた社員が本音で上司に意見を言ったところ左遷されてしまったという話を聞いたことがあります。本音で話そうといったことが実は建前であったという笑うに笑えない笑い話です。信頼関係を築くには本音が大切だということを無防備に信じると取り返しのつかない事態を呼び込みますので状況をしっかりと見極めましょう・

 ◆頭も身のこなしも柔らかくあれ。
 人間はリラックスすればするほど身も心も柔らかくなります。逆に、緊張すればするほど固くなります。例えば、リラックスして水に体を委ねると人間の身体は浮きますので伸び伸びと水泳を楽しむことができます。一方、泳げない人は、緊張して体が硬くなりますので同じように水に浮こうとしても、水に飲み込まれてしまいます。怖くなり身体をバタバタさせるとさらに深みに引きずり込まれてしまいます。
 水の中ばかりではありません。あなたは、ある重要な会議で改善策を提案することになりました。会議メンバーは全員、会社の経営陣です。いわゆる強面(こわもて)する面々が睨(にら)んでいる前でプレゼンすることになりました。想像するだけで緊張が増してきます。プレゼンが始まりました。心臓の鼓動がパクパクと音を立てているように感じられます。緊張が頂点に達しました。声もうわずっています。準備した時と全く異なる状況に追い込まれてしまいます。実際には準備した内容の半分も出しきれません。こんな経験をしたのは私だけではないはずです。事程左様に人は緊張すると身体が硬くなります。身体だけではありません。頭も回転が悪くなります。ひどい場合は思考がストップするいわゆるフリーズ状態になってしまうこともあります。リラックスするにはどうすべきでしょうか。何回も何回も練習を重ね自信のような気持ちがわいてくる時があります。そうなればしめたものです。心にリラックス状態が芽生えると身体も頭も柔らかくなります。

 ◆嘘も方便、時には許されることもある。
 嘘をつくことは罪悪ですが、目的を果たすためには嘘が必要な場合もあるということです。この世の中すべて真実だけが通用するとは限りません。例えば、余命いくばくもない患者に対して医師は「あなたの命はあと一か月しか持ちません」とは言いません。当然ながら、家族には本当のことを告げるでしょう。患者本人には「大丈夫ですよ、頑張ってくださいね」と激励します。この状況下で、医師に「嘘を言ってはいけない」とはだれも言いません。
 私たちの身の回りには「許されるうそ」と「許されない嘘」が飛び回っているように思います。
許される嘘はある意味人間関係の潤滑油のような役割を果たしていることもあります。夫婦間でも親子間でもどちらからでもうそが日常的に発せられています。会社の中の人間関係でもプライベートな人間関係で生じる「許されるうそ」が氾濫していると思います。
 採用時の心理学テストに「私は今までに嘘をついたことがない」という質問があります。この質問に対して皆さんならどう答えますか。「はい」か「いいえ」で回答します。「はい」と答えた人はうそを言っていると思われます。「いいえ」と答えた人が真実を述べていることになります。これは「ライスコア」といって虚偽癖があるかどうかを見抜くための尺度になります。大抵の心理テストにはライスコアが10項目挿入されています。ライスコアの高い人は極力採用しないほうがいいことになっています。

(了)


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