論語に学ぶ人事の心得第30回 「古代から現代まで繰り返される人間関係模様は?」

 本項は孔子が君子と小人の違いについて語ったものです。
 論語ではこの君子と小人を対比して語られる場面がしばしば登場します。
 君子という言葉は論語学而編1-1に登場してから何回もありました。君子とはもともと貴族を指した言葉ですが、一角(ひとかど)の立派な人物、指導的地位にある人、リーダーあるいは組織のトップという意味にも使われるようになりました。


孔子像:出典Bing

 一方、小人とは身分の低い階層に属し、芳しくない性向を持つ者という意味ですが、孔子は品性の下劣な人を指して使っています。つまらない人、器の小さい人といった意味に用いられます。人間関係は損得で決まるのではありません。
 しかしながら、論語里仁(りじん)編第四-16で「子曰わく、君子は義に喩り、小人は利に喩る」と本項と似たような取り上げられ方をしています。つまり、君子は正義に敏感に反応し、小人はお金に反応すると孔子はズバリ的をついています。
 優れた人物というのは人としてのあるべき姿を判断基準としているのに対し、小さな人物は自分が儲かるかどうかを判断基準にしていましす。このような人間関係では権力を持っている時には人は集まり媚びへつらいます。ところが、権力を亡くしたとたんにまるで引き潮のごとく人は去ります。

 為政2-14「子曰く、君子は周(あまね)くして比べず、小人は比べて周(あまね)からず。」

 先生は言われた。「君子は周(あまね)くして比べず」とは人の指導的立場に立つ人は節度をもって誠実に付き合い、派閥を作らない。「小人は比べて周(あまね)からず」とは、つまらない人物はその逆でなれ合いをしてべたべたとした付き合いをするが節度がない。また、すぐ、派閥を作りたがる。

 論語の教え31: 「良き人間関係のコツはヤマアラシのジレンマに陥らないことだ」

 ヤマアラシのジレンマとは?
 「ヤマアラシ・ジレンマ」とは、人と人との間の心理的距離が近くなればなるほど、お互いを傷つけ合うという人間関係のジレンマのことを言います。アメリカの精神分析医ベラックはこの現象を「ヤマアラシ・ジレンマ」と名付けました。


出典:Bing

 以下の話は現代のイソップ物語です。
 「ある冬の日、2匹のヤマアラシは嵐にあいました。2匹は寒いので、お互いの体を寄せ合って暖をとろうとしたところ、それぞれのトゲで相手の体を刺してしまいます。痛いので離れると、今度は寒さに耐えられなくなりました。2匹はまた近づき、痛いのでまた離れることを繰り返していくうちに、ついに、お互いに傷つけずにすみ、しかもほどほどに暖めあうことのできる距離を発見し、あとはその距離を保ち続けました。」

 人間同士がお互いに親しくなるためには「近づく」ことが必要です。
 いい例が夫婦関係です。結婚したてのときはお互いに新鮮な気持ちで緊張感をもって家庭生活を営みます。やがて、子どもができて家族生活を営むようになると遠慮がなくなり相手の粗(欠点)が気になり始めます。黙っていればよいのですが我慢できなくなって相手に不満を言います。この段階では相手が好きであるがゆえに相手のことが気になるいわゆるアンビバレンス(愛と憎しみが同居している)な状態にあります。
 ここではまだ、愛情や信頼関係が残されているのですが、しばらくたつと罵り合うような不毛の対立が始まります。このように、お互いに近寄りすぎると極度の緊張感にさいなまれ、それが進むと反発が起きます。かといって遠ざかり過ぎると精神的に疎外感が生まれたり、違和感を抱いたりしがちです。
 夫婦関係でなくとも、友人、知人の間でも同様のことが起こります。さらに言えば会社の上司と部下、同僚間でも起こりうる話です。
 結論的に言えば、いい人間関係を持続させるには適正な心理的距離をそれぞれがもつことが大切なのです。
 どうしたらうまく心の距離感をとれるのか、
 では、心理的距離をうまくとって人間関係をコントロールするにはどうしたらよろしいのでしょうか?
 それには、まずは次の三点に留意するといい人間関係が構築できます。

 第一は、相手の人格を認め自分の価値観を相手に押し付けすぎないことです。たとえ親子のような血族関係であったとしても相手の人格を尊重し節度をもって交流することを心掛けることです。ましてや血族関係を持たない第三者には組織の上下関係であっても相手を尊重することが大切です。

 第二は、相手の弱みに付け込み、欠点や不足することを指摘しすぎないことです。
 この世の中には完全な人間は誰もいません。必ず、長所と短所を持っています。相手の短所を無くそうといくら努力しても短所は無くなりません。指摘された相手を不快にするか反発されるだけです。そんなことに無駄な時間を使うなら相手の長所や強みを伸ばすことに時間を使ったほうがよほど生産的です。

 第三は、交流する際に相手に感じたことをストレートの出しすぎないことです。
 言い換えれば、相手の一挙手一投足に関心を持ちすぎないことです。また相手の態度や言動に一々口出しせず、出かかっても飲みこむことが大切です。良かれと思って口出しすることが相手には嫌味に映ります。清濁併せ呑む度量の大きさが人間関係をよくするコツであり、それらが、「ヤマアラシ・ジレンマ」に対する有効な解決方法です。そして、人とのグッド・コミュニケーションの近道だと思われます。(了)


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