論語に学ぶ人事の心得第27回 「温故知新とは先人に学び、現代に活かすこと」

 「温故知新」という四文字熟語は誰でも知っている言葉です。温故知新の意味は「過去のことを研究して、そこから新しい知見を見つけ出すこと」です。 論語で取り上げられて以来2500年の時を超えて現代でも十分通用する言葉として燦然と輝いています。


若き孔子像 出典:Bing

 孔子はもともと歴史に学ぶことを重視し実践していました。本項はその孔子の実体験に基づいて、周りにいた弟子や将来のリーダーになる人に贈られた言葉です。
 孔子が関心をもって学んだのは古代中国の賢帝と言われる帝王が実際に取り入れた統治制度や律令を研究することでした。
 孔子が優れている点は、それらの古い時代を研究することで得た知識や道理をそのまま受け売りするのではなく自分なりの考えを培養して、その時代に通用する知見として活用したことでした。孔子が自ら述べているように単に頭の中で理解していることは真に学んだとは言えず、実践できて初めて学習したことになります。
 そして、孔子は弟子に将来地域社会の指導者として活躍し、使命を果たすことを期待していました。孔子の期待する指導者像は知識の豊富な頭でっかちのリーダーになることではありません。論語ではしばしば「君子」という言葉が出てきます。君子とは徳を積んだ周りから信頼される人という意味です。高貴な近寄りがたい権力者ということではありません。

 「温故知新」における「温」は、「たずねる」と読みます。 温(たずねる)は「尋ねる」「習う」「復習する」「よみがえらせる」といった意味を持っています。 「故」という字は、「昔、以前」「もとより、はじめから」「古い」などといった意味です。 それらが組み合わさり「過去のことを研究する」といった意味になりました。 「知新」はそのまま「知る」と「新しい」で「新しいことを知る、新しい知識をもつ」といった意味になります。

 為政2-11「子曰く、故(ふる)きを溫(たずね)て新(あたら)しきを知る、以(もっ)て師と爲(な)る可(べ)し」

 先生は言われた。「故(ふる)きを溫(たずね)て新(あたら)しきを知る」とは過去を過ぎ去った時間だとして捉えるのではなく、現在の問題として認識すること。以(もっ)て師と爲(な)る可(べ)し」とはその様にすれば人を教える立場になるころができる。


 論語の教え28: 歴史という長い時間軸で熟成した人類の英知を活学すべきだ


若きビスマルク像 出典:ウイキペディア

 教え1「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
 この名言は初代ドイツ帝国宰相であるオットー・フォン・ビスマルクの残した言葉です。いきなりドイツ人の話が出てきて驚かれたと思います。
 時代も国も文化も全く異なる社会に生きた二人の偉人に共通する考え方を紹介する意味であえてここで引用しました。
 ビスマルクの言っている「愚者は経験に学ぶとは愚かな人は自分一人の経験からしか学べない。「賢者は歴史に学ぶ」とは、賢い人は長い歴史に脈々と流れる他人の経験を含む歴史的事実から学んでいるという意味です。
 論語の温故知新の故(ふるき)を温(たずね)と言っているのはまさに歴史に学ぶということです。
 そして、歴史に学ぶことは限りある個人の知見より多くの人が経験してえた知見のほうがはるかに確実性の高い情報になるからです。


 教え2「同じ失敗を繰り返さないために、故(ふるき)を温(たずね)て、先人の経験法則を学ぶべきだ」

 ご承知のように、経験法則は一朝一夕(いっちょういっせき)にできるものではありません。長い時間をかけて人類が蓄積してきた普遍性を持った決まりごとです。
 歴史は私たちが長い時間をかけて熟成した実際におきた事例です。そこには成功した事例もあれば、失敗した事例もあるでしょう。また、成功したがゆえに失敗を引き起こす誘因となった事例もあります。

 私たちが「故(ふるき)を温(たずね)る」理由には次の二点が想定されます。

 第一は先人が失敗した事例や成功したことが誘因となって失敗した理由を研究し二度と同じ過ちを犯さないためです。
 私たちが営んでいる人間社会は自然科学界と異なり正解が一つであると断定できません。正解が複数ある場合もあります。また、ある時は正解であっても、環境が変われば不正解に変化することがあります。
 従いまして、これらに的確に対応するには事例研究を怠らないことです。それは、知識を増やすためでなく、数多くの事例に触れ、繰り返し事例を解く訓練をすることにより思考力を強化することです。後世、ケースメソッドと言われる学習方法が開発されました。そこで討議を積み重ね、経営責任者としての思考力を鍛錬することで最適な対応策をまとめ上げるのです。
 ここでも孔子の人材育成方針が生きてきます。
 それは、「自ら考え、実行する思考力を養成すること」です。
 そのために、「三者三様の教え」「正解を導き出す思考過程の教え」「事実を検証することの教え」の三点を実践しました。

 第二は不測の事態が勃発したときにその対応策を誤らないためです。
 この世の中で、将来何が起こるのかを確実に予見することは不可能です。未来はすべて神のみぞ知る世界です。将来何が起こるかは誰にも分かりません。そこで、何かが起きた時にどう対応するか、教材は過去にしかありません。そして、それを自分の身体に叩きこむことです。
 ここに私たちが「故(ふるき)を温(たずね)る」理由があります。
 天災や人災であれ、災害、事件や事故がいつ起きても不思議ではありません。
 いずれまた大きな天災が起こるでしょう。その時に災害への対応策を勉強した人としなかった人、どちらが助かりやすいかは誰にでも分かります。歴史を学ぶ大切さは、これに尽きます。(了)


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