論語に学ぶ人事の心得第23回 「人間にしかできない孝行とはどうすればいいのか」

子游(しゆう)国立故宮博物館蔵

 本項は孝行に対する弟子との対話です。子游(しゆう)は孔子より45歳年下の弟子。孫ほどの年の開きがありました。姓は言(げん)、名は偃(えん)と言いました。文学(古典研究)の才を孔子に評価されました。孔門十哲のひとりです。弟子との対話では前掲の孟懿子(もういし)などの有力者とは異なり気楽な気分で応えています。
 実はここに孔子の指導の真髄が隠されているのです。
 孔子の人材育成の基本は自ら考え自ら行実行する人づくりでした。

 そのためにどうしたのでしょうか?
 第一は三者三様の教えです。
 個人ごとに指導の仕方を変えます。人を見てその人に合った指導をしました。同じ質問をされても同じことを回答していません。その人の性格や能力に応じた指導方法を選択したのです。
第二は正解を導き出す思考過程の教えです。
 質問されたときにすべての正解を教えず、考えさせる示唆(ヒント)を与える回答をしています。孟懿子(もういし)のような権力者には孝を問われて「外れないことだ」と相手に考えさせるとうに答えています。また、その子孟武伯には病にかかって親に心配かけないことが孝行だと回答しています。
 第三は常に事実を検証することの教えです。
 学んだことは「鵜呑みにせず必ず調査分析しして確認しなさい」そして、必ず自分の意見を添えて納得して習得しなさいというものでした。要するに、学ぶことは知識そのものを増やすことが目的でなく学んだ知識をよく思索して実践することが大切であるというものです。

 本項の子游(しゆう)との対話はこれらを裏付けるに最適な場面です。孔子は子游(しゆう)には噛んで含むような表現で孝を説いています。

 為政2-7「子游(しゆう)、孝を問ふ。子曰(しいわ)く、今の孝(こう)なる者、是(これ)能(よ)く養(やしな)ふを謂(い)ふ。犬馬於(けんばに)至るまで、皆(みな)能く養(やしな)う有り。敬(うやま)はずんば、何を以(もっ)て別(わか)たん(乎)。」

 「為政2-7「子游(しゆう)、孝を問ふとは子游が先生に孝について質問した。先生はこのように言われた。今の孝(こう)なる者、是(これ)能(よ)く養(やしな)ふを謂(い)ふとは今どきの孝行は親を養うことを言っている。犬馬於(けんばに)至るまで、皆(みな)能く養(やしな)う有りとはしかしそれだけなら犬や馬でも食糧を与えて養っている。
 敬(うやま)はずんば、何を以(もっ)て別(わか)たんやとは親への敬愛する気持ちがなければ何の区別が付けられようか」

 論語の教え24:「人間にしかできない真の孝行とは親を養うことだけでなく親を敬うことだ」

 孝行とは単に物質的に親を養うことではない
 若い弟子からの問いに対して孔子の答えは「今頃は親を養うことが孝行だという風潮があるようだが、親を養うだけなら馬や犬でもやっている。そんなことで孝行というなら犬や馬と何ら変わらない」という回答でした。
 そして、「本当の孝行とは親を敬うことなんだよ」と諭すように教えたのでした。
 前述したように45歳も年の離れた孫のような存在の弟子に噛んで含めたように世間での誤った風潮をただしながら、それには直接触れずに「孝」の本当の意味を説いています。
 それにしても、驚くのは2500年後の現代社会においても燦然と輝く珠玉(しゅぎょく)のアドバイスであることです。人間社会の進歩は遅々として進まない証(あかし)でもあります。

 現代のビジネス社会における孝行とは上司を敬うことだ
 それでは現代のビジネス社会では孔子の教えをどのように取り入れるべきでしょうか。ビジネス社会は何度も出てくるように血のつながりで構成される社会ではありません。でも孔子の考えは現在のビジネス社会においても全く当てはまることばかりです。
 ビジネス社会といえば所属する組織の中の人間関係です。その関係性や影響力は血族社会より濃密です。会社生活は時間にすれば家庭生活より長いのです。人生の大半は会社生活にあると言えます。その会社生活が面白くなく充実していなかったとしたら大変です。
 子供が親を選択できないのと同様に、職業人生においては上司を選択することはできません。社会に出るまでは親の指導に基づいて子供は成長しますが、実社会に出ると親に変わって上司が育成してくれるのです。職業人生で成長するかしないかは上司で決まると言っても言い過ぎではないでしょう。前回述べたように若かりし頃は親でもないのになぜ厳しく叱られたり小言を言われなければならないのだと反発したのに、いずれ自分も部下を持つようになると同じ状況に対して上司に感謝の念を持つようになります。それはほかでもない上司を敬う気持ちが生じたからです。自分を一人前の社会人に育ててくれた上司への感謝の念を持つことにより会社生活はますます充実してきます。
 「上司は部下を理解するのに三年かかるが、部下は上司を理解するのに三日もあればよい」という諺(ことわざ)があります。ここでの問題は部下が上司の欠点ばかり見てしまうことです。
 孔子は上司を敬うには上司の欠点でなく優れたところを見抜くことが大切だと説いています。
(了)


投稿者

RSS 2.0 Login