論語に学ぶ人事の心得第20回 「私たちは波乱万丈の孔子の生涯から何を学ぶべきか?」

 ままならないのが人生
 本項は論語の多くの教えの中でももっとも有名な一つです。皆さんの中には一度はこの言葉を見たり聞いたことがあると思います。孔子は、晩年になって自らの波乱万丈の生涯を段階的に回顧したものです。


孔子と弟子たち 出典:Bing

 そして、後年になって孔子の生涯を区分して15歳を「志学」、30歳を「而立」、40歳を「不惑」、50歳を「致命」、60歳を「耳順」と名付けられました。
 ところで、私たちにとって人生とは何でしょうか。人生の送り方は人さまざまです。100人いたら100通りの人生があります。
 人々は「豊かな人生を送りたい」「会社の経営者になって金持ちになりたい」「芸術家になりたい」「政治家になって人を指導する立場になりたい」などなど将来のありたい姿を描き、それを実現するために努力します。
 しかし、思い通りに行かないのが人生です。いったんは描いた夢を実現しても実現できた同じ理由で壊してしまうこともあります。「成功は失敗の母である」と言われる所以です。 
 逆説も成り立ちます。「失敗は成功の母」ということです。挑戦して失敗することから多くを学び成功を勝ち取ることができるという意味です。

 逆境に立ち向かい切り開いた人生
 孔子の人生はまさにこのような人生でした。孔子の母親は身分の低い家の出身でした。また、孔家の嫡子でもありませんでした。軍人である父親が三歳の時に戦死したため、非常に貧しい少年時代を送ります。劣悪な環境の中で育ったにもかかわらず学問で身を立てようと志します。やがて、母親もこの世を去り天涯孤独の身になりますが、しばらくして、19歳で結婚し家族に恵まれました。多くの弟子に慕われるようにもなり、30歳になった時、学問で身を立てることの目途が立ちました。
 四十代、五十代は学問に自信を持ち、魯の君主に乞われて大司寇に登りつめますが、政治改革を巡って三大貴族との政争で敗れ、故国を追われ弟子とともに諸国の遊説を余儀なくされます。14年間もの遊説の結果、諸国から理解されず悲嘆にくれて故国に戻り、弟子の育成に生涯をささげました。このように孔子の生涯は順風満帆ではありませんでした

 為政2-4「子曰く、吾(われ)十有五にして學於(がくに)志(こころざ)す。三十にして立つ。四十にして惑(まど)はず。五十にして天命を知る。六十にして耳に順(したが)ふ。七十にして心の欲する所を縦(ほしいまま)にするも、矩(のり)を踰(こ)えず」

 先生は言われた。「吾(われ)十有五にして學於(がくに)志(こころざ)す」とは私は15歳になった時に学問をしようと決意した。「三十にして立つ」とは30歳になった時、学問的に自立した。「四十にして惑(まど)はず」とは40歳になった時、自信ができて迷わなくなった。「五十にして天命を知る」とは50歳になった時に天が私に与えた使命を悟った。「六十にして耳に順(したが)ふ」とは60歳になった時はっきりと物の善悪がわかった。「七十にして心の欲する所を縦(ほしいまま)にするも、矩(のり)を踰(こ)えず」とは70歳になって欲望のままに行動しても社会から後ろ指をさされるようなことは無くなった。

 論語の教え20:「生涯をかけられる揺るぎないテーマをバックボーンに探求すれば納得できる人生が送れる」
 ―自己矛盾に陥らない伸び伸びした人生を送るために

 孔子の揺るぎない支柱は五常と五倫
 孔子の生涯は一口で言うと真理を探究する生涯であったと言えると思います。
 現代風に言うと真理を探究することがライフワークでした。それが前項で述べた儒教という思想体系でした。五常(仁、義、礼、智、信)という徳性を拡充することにより五倫(父子、君臣、夫婦、長幼、朋友)関係を維持することに発展させました。


五常:出典Bing

 高弟によりますと孔子は自分を売り込んだり、地位を求めたことは一度もありませんでした。祖国「魯」で枢要な地位に就いた時も、他国から指導を求められた時もすべて乞われて受け入れたのでした。
 したがって、権力におもねることもなく真理に反することに対しては誰に対しても遠慮会釈なく毅然として正論を吐き続けることができました。
 孔子のこの正論は学而編でも述べられているように単に理屈をこねまわす空理空論ではなく、実践の中から紡ぎだされた経験法則だったので説得力がありました。

 自己矛盾に陥らない人生―真理を追究すること
 また、孔子の考えはいかなることがあっても主張にぶれることはありませんでした。一貫性を持っていましたので後でつじつまを合わせることや一切の弁解も必要としませんでした。鋭い切り口で未来を洞察していましたので相手は従わざるを得なかったのです。
 納得できる人生を送るとは自己矛盾に陥らない人生を送ることです。自己矛盾とは自分の考えと行動につじつまが合わないことで誰かの操り人形になって人生を送ることです。
 これほど寂しい人生はありません。自己矛盾に陥らない最高の特効薬は生涯をかけて真理を追究し続けることだと孔子は教えてくれているのだと思います。(了)


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