論語に学ぶ人事の心得第四回 「人事の要諦は社員との信頼関係を築き上げることである」

 孔子は政治家として成功した人ではありませんでしたが政治的理想は高邁で生涯にわたりぶれることはありませんでした。今回取り上げた教えはまさに孔子が描いた理想を唱えたものです。しかし、これは政治だけでなく時空を超えて現在の経営や人事の金字塔になった教えです。

 学而1-5「子曰く、千乗の国を道びくに、事を敬みて信、用を節して人を愛し、民を使うに時をもってす」
 「千乗の国を道びく」とは魯の国のような諸侯の国を治めることです。信とは信義のこと。信義は真心をもって約束を守り、国民に対するつとめを果たすことを指しています。国民に義務を強いる前に為政者が固民を信頼し、無駄を排して国民のためになる政治を行うことが必要だと説いているのです。
 現代にも全く適用できる話です。いな、世界的に、現代ほど政治の信頼を構築する必要性に迫られている時代は歴史上になかったと言っても言い過ぎではないと思います。
 世界のリーダーはこの教えに耳を傾けるべきだと思います。政治的リーダーだけでなく、企業をリードする経営者にも当てはまることです。政治の乱れは政治家の乱れであり、経営の乱れは経営者の乱れだと言われます。腐敗は常に上層部から始まります。
 ところが政治家は民の徳不足をあざ笑い、経営者は社員の能力不足を嘆いています。まったく本末転倒で認識不足も甚だしいと言ったらいい過ぎでしょうか

 論語の教え6:人事の要諦は社員との信頼関係を築き上げることである。そのためには社員を大切にしなければならない」

 社員に愛情を持つことが人事の基本です。
 人事でいう愛情とは単なる好き嫌いの話ではありません。社員一人ひとりの違いを発見し社員の個別ニーズに対応することが原則です。
 当社が本格的に人事労務コンサルティング事業を開始して4年目を迎えています。最近になって、華東地域の日系企業では人事管理に目覚め、諸制度の改革に取り組む企業が増えてきましたがそれまでは人事管理とは程遠い状況が続いていました。いわゆる労務管理全盛時代だったのです。大量に採用して大量に辞めさせるのが当たり前でした。

 人事管理と労務管理は真逆です。
 人事管理は前述したように社員の個別ニーズを把握しきめ細やかにニーズに応える管理手法です。労務管理は集団管理です。集団隔離は社員の個別ニーズに応えることを必要としていません。主たる管理は勤怠管理だけです。働いた時間で賃金が支給されるだけですので組織上に人事機能を持った部署がありません。
 シンプルといえば聞こえはいいのですが社員を単に人手や人足としてしか見ていないのです。社員を人として認識していないのですからそこには信頼関係を構築する余地や必要性が存在しません。

 そんな管理をしながらも会社は社員に高い質を求めます。
 社員の質が低いと製品の質が低く、顧客からの苦情が絶えないからです。
 かつて、関係している会社で製品の品質不良で顧客からの苦情に悩まされ続けている会社がありました。経営者に詳しく話を訊いてみました。すると、その経営者は業績不振のため高い賃金が払えないから社員が定着しないのだと思い込んでいました。賃金をこれ以上上げられないから手の打ちようがないと半ばあきらめ顔で語っていた姿を思い出します。
 本当にそうでしょうか。私には全く別の理由だと思われました。
 社員は離職するときは賃金の低さを理由にすることがよくあります。それは退職理由として最も有効であることを社員がよく知っているからです。しかしながら、本当の理由が別にあることが多いのです。
経営者の認識不足や洞察力の無さによって対策が的外れになります。

 社員と会社に信頼関係が築き上げられている会社ではこのような事態は起こりません。社会の発展に伴って社員の価値観が多様化してきます。いつまでもワンパターンの集団管理を続けていたら企業も社員も取り残され、やがては企業そのものが衰退し没落することになるでしょう。


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