論語に学ぶ人事の心得第76回 「君子の行動は一貫している。義(ただ)しいことのみを貫徹するのだ」

 本稿は五常の一つである「義」について孔子が語ったものです。ご承知の通り、五常とは儒教の教義である仁、義、礼、知、信のことです。義とは利欲にとらわれず、なすべきことをすることと定義されています。


出典:Bing

 論語第二編「為政編2-24」項でも「子曰く、其の鬼(き)に非(あら)ずして之を祭るは諂(へつら)いなり。義を見て為さざるは勇無きなり」と述べています。意味するところは、自分の先祖でもないのに祭るのは諂(へつら)いである。人としてなすべきことを見ていながら行動に移さないのは勇気のない人間であるということです。これは後世にまで語り継がれた有名な言葉です。このことを孔子が指摘したのは、ほかでもない、孔子の生きた時代は自分の先祖を祭ることが大変重視されました。
 しかし、この風習はだんだんと拡大解釈されて、有力者の先祖の霊魂まで祭る人が現れました。孔子はこのことを「義」に反する行動だと否定したのでした。このように、孔子は正しくない行為に対しては、誰であっても間違いを正そうとしました。孔子自身が正しい判断基準を持っていたからこその行動であり、それを決して、見逃そうとしない勇気があってこその行動だと思います。
 里仁編4-10「子曰く、君子の天下に於けるや、適(てき)無きなり。莫(ばく)無きなり。義にのみ之(これ)を与(とも)に比(した)しむ」
 師は言われた。「君子の天下に於けるや、適(てき)無きなり」とは他人から尊敬を受けるほどの立派な人は世の中において人に親切である。「莫(ばく)無きなり」とは薄情であることはない。「義にのみ之(これ)を与(とも)に比(した)しむ」とは、君子はただひたすら正しいことにのみ関心を持つのだ。

 論語の教え76:「人から尊敬を受けるような人は誰が正しいかでなく、何が正しいかで判断し行動する」


出典:Bing GE元CEO ジャック・ウェルチ


◆リーダーは主観的でなく客観的事実で判断せよ。
 人を指導する立場の人は「誰が正しいかでなく、何が正しいかで判断せよ」ということです。
 誰が正しいのかで判断すると忖度(そんたく)することや諂い(へつら)が出ます。人は権力者に阿(おもね)るからです。忖度とは、他人の心情を推し量って相手に配慮することです。とりわけ、権力者の意向を推し量って権力者の有利になるように周りが取り計らうことが問題です。諂(へつら)うとは人の気に入るように振る舞い、お世辞や追従(ついしょう)を言うことです。以前に「裸の王様」のことをご紹介しました。
 童話の世界の話ですが、現実の世界でも近い話を現代でも見聞きします。権力者である王様が賢いものにしか見えない布を織ることができるという詐欺師に騙されて、その布をまとって街をパレードします。王様の周りの人々や大人は素晴らしい服だと誉めそやすのですが、裸の王様を見た子供が「王様が裸だ」と叫ぶので騙されていることを気づかされるのです。往々にして、批判や反対を受け付けない権力者は、本当の自分がわかっていないということを教えたデンマークのアンデルセンという童話作家の代表作です。

◆リーダーは事実を把握したら鵜呑みにせず、必ず検証せよ。
 事実といってもそれが正しいかどうかは検証してみないとわかりません。自分の目で見た一次情報でも事実と思いがちですが、それとて検証してみないと事実かどうかわかりません。ましてや二次情報、三次情報になると事実かどうか怪しくなります。マスメディアによる情報はこの類型に入ると思いますが鵜呑みにできない情報が多いようです。それは必ず取材者の目でろ過された情報だからです。かつて、有名なマスメディアが捏造記事で世間を賑わしたことがありました。捏造記事とはありもしないことをさも取材したと偽って報道することです。
 私たちにはマスコミは正しい情報を流しているという錯覚や先入観もあります。何事もすべて疑ってかかれとまで言っているのではありませんが、大事な意思決定をする際の情報は必ず複数の検証をして誤った情報を用いないようにすることがリーダーの責務です。入手した複数の情報を分析し本質的傾向をつかむことも検証することと同時に欠かしてはならない大切なプロセスであることを付け加えます。

◆リーダーは事実に確信を持てたら果敢に実践せよ。
 ここまでのプロセスでリーダーの仕事は半分クリアしたことになります。まだ半分かと思う方がいるかもしれません。しかし、リーダーは一人ですべてやるわけではありません。せっかく正しい情報を把握しながら行動しなかった事例も山ほどあります。価値ある情報は部分的不可知の状態で入手することが多いからです。この部分的不可知の状態が価値を生むのですが乗り越えるにはリスクを伴います。勇気のないリーダーはそのまま見過ごしてしまいます。
 さらに、次のステップとして、意思決定した結果を関係先にコミュニケーションしなければなりません。優先順位をつける必要もあります。
 組織全体が方向を変えるためには様々な手続きが生じます。組織の規模により末端組織に浸透するまでに何階層も経なければなりません。リーダーの仕事は意思決定することだと思っている方もいますがとんでもない錯覚です。リーダーの仕事の大切な役割は執行管理です。
 執行管理とは何か? マネジメントを確実に行うことです。PDCAサイクルを回して組織全体に政策を浸透させることが最大の任務であると思います。


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