論語に学ぶ人事の心得第60回 「人から尊敬されるような品格の備わった人は、バランス感覚が秀でている」

孔子像 出典:Bing

 本項は詩経にある關雎(かんしょ)という詩の一節に対する孔子の感想を述べたものです。
 人生の良き伴侶と巡り合えることがなかなか難しいことです。良き娘と出会えないという苦しみを得ても、心が挫(くじ)けてしまうまでには至らせないことです。念願かなって、いい娘さんと出会って結婚しても、過度に女色に耽溺するのではなく、節度をもって夫婦生活を営むのが立派な人の生き方だと説いています。当時は、力(権力と金)さえあれば、正妻以外の女性を何人も抱えていた時代です。子供も二桁いる家はそれほど珍しいことでもありませんでした。
 孔子自身の出自も庶子でしたから、そのような環境でありましたし、何も反社会的な行為ではありませんでしたが、生育の過程でずいぶんと嫌な思いをしたことは想像に難くありません。そんなこともあって、孔子は生涯一人の女性を妻とし、一人の子供をもうけました。
 關雎(かんしょ)は「詩経」の国風(こくふう)の冒頭に配された「周南(しゅうなん)」の最初の一節だと言われています。
 關關(かんかん)と鳴(な)く雎鳩(しょうきゅう)は、
 河(かわ)の洲(す)に在り。
 窈窕(ようよう)たる淑(よ)き女(むすめ)は、
 君子の好き逑(つれあい)

 かあかあと鳴くミサゴの鳥は
 川の中州にいる。
 上品でよい娘は
 立派な方の良い連れ合いだ
  

 八佾篇第3―20「子曰く、關雎(かんしょ)は樂しみて淫(いん)ならず、哀(かな)しみて傷(やぶ)らず」

 師は言われた。「關雎(かんしょ)は樂しみて淫ならず」とは關雎(かんしょ)の詩は楽しげでありながら、節度を守って耽溺(たんでき)することはない。「哀しみて傷(やぶ)らず」とは悲哀(ひあい)の感情もあるが心を鋭く傷つけることはない。

論語の教え60: 「リーダーとは嵐に立ち向かう船長のようなものだ」

◆公私ともに大切なことは何事にも行き過ぎないことだ
 「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」という格言は誰でも知っています。論語第十三「先進篇16項」で孔子が語っている言葉です。
 「知っていること」と「やっていること」は全く別物であることは今も昔も変わりません。この格言の教訓とは別の行動をとり、失敗する人は今なお、後を絶ちませんし枚挙にいとまがありません。
企業経営でいえば業績が最高に達したときに組織全体が酔いしれていたら、必ず、そこに業績悪化の陰りが忍び寄っていたという話は敗軍の将の反省の弁です。一方、家庭生活でも幸せの絶頂期にいた時に、病魔が忍び寄っていたなどという話も聞きます。
 優れた経営者ほど絶頂期に最悪期の準備をすると言います。世の中はいいことばかりが巡ってくるわけではないことをよく知っているからです。順風満帆の時もあれば暴風雨が吹き荒れる時もあります。その時のために余裕のある時に準備を怠らないことが大切です。嵐を真にして、命の次に大切な積み荷を海に捨てても、命を守り切る大航海時代の船長のような行動が必要です。
 どんな艱難辛苦にも耐え、目的地に到着できる船長のみに備わった資質です。

◆欲望を自己管理できなければリーダーになれない
 欲望のままに生きることはある意味幸せな人生を送れると言えるかもしれません。
 しかしながら、私たちは人生の節目、節目に社会的にも、私生活的にも責任を伴う立場に立たなければなりません。職業生活では組織のリーダーになります。最初は小規模で一チームからのスタートから始まります。部下の数も十人未満のリーダーですが、次第に重い責任を負う立場へと進展してゆきます。場合によれば、企業全体の責任を負う立場に立つことも大いにあり得ます。 責任」とは、どういう意味があるのでしょうか?辞書によりますと「責任とはしなくてはならない務めのこと、その他に、悪い結果が生じたときに損失や罰を引き受けるという意味だ」と定義しています。ということは自己中心の欲望にとらわれた行動ができないことを意味しています。



 リーダーとは自己管理ができる人のことだと置き換えることもできます。欲望のままに生きることと真逆のことになります。
 本項でいえば、まさしく孔子が述べてている言葉のすべてが自己管理をすることの大切さを説いていると言っても言い過ぎではないでしょう。

◆企業経営も家族経営もバランスが大切だ
 何事にもバランスが必要だというのが論語で孔子が一貫して主張している考え方です。孔子の美学
だと言ってもいいでしょう。孔子がさらに素晴らしいのは言行を一致させていることです。
 ご承知の通り、企業経営では企業の活動状況を財務諸表にまとめます。その中核にあるのがバランスシートと呼ばれている貸借対照表です。同様に家族経営でも資産と負債がバランスしていないと遠からずその家族は破綻することになります。
 一番心掛けなければならないのは結果の数字を把握して反省することではなく、結果を生み出す企業経営や個人の生活態度そのものをバランスさせなければならないことです。数字のアンバランスは行動のアンバランスと直結しています。
 行動変革しなければ数字のバランスはとれませんし。行動変革させるには意識変革をしなければなりません。意識変革をするためには前述した自己管理が不可欠であると言えると思います。

(了)


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