論語に学ぶ人事の心得第34回 「官職に就いて成功するにはどう心掛けるべきか?」

子張(しちょう)像:国立故宮博物館蔵

 孔子と最年少弟子、子張(しちょう)との対話です。
 孔子の直弟子です。姓は顓孫(せんそん)、名は師(し)、字は子張(しちょう)と言います。 孔子より48歳年少でした。孫ほどの年差があります。
 本項は第二編為政—18ですが、論語19編に子張(しちょう)編として特別に大きく取り上げられています。子張(しちょう)は孔門十哲には入っていませんが、若手のリーダーともいうべき存在で、優秀な弟子でした。
 孔子の弟子には官職を目指す弟子が多かったのですが子張(しちょう)もその一人でした。
 自信に満ちた駿馬のごとき子張(しちょう)を目の前にして孔子独特の考えさせる指導方法で対応します。
 急(せ)いては事を仕損じると言わんばかりです。
 老練な孔子ならではの示唆に富んだアドバイスがひときわ異彩を放っています。

 為政2-18「子張、祿を干(もと)むるを學ぶ。子曰く、多く聞きて疑はしきを闕(か)き、愼(つつし)んで其の餘(あまり)を言へば、則ち尤(とがめ)寡(すくな)し。多く見て殆(あやうき)を闕(か)き、愼みて其の餘(あまり)を行へば、則(すなわ)ち悔(くい)寡(すくな)し。言(げん)に尤(とがめ)寡(すくな)く、行(おこない)に悔(くい)寡(すくな)ければ、祿(ろく)其の中(うち)に在り。」

 「子張(しちょう)、祿を干(もと)むるを學ぶ」とは「子張(しちょう)は官職に就き俸給を得る方法を師に尋ねた。先生は言われた。
 「多く聞きて疑はしきを闕(か)き、愼(つつし)んで其の餘(あまり)を言えば、則ち尤(とがめ)寡(すくな)し」とは、できるだけ多くのことを聞いて疑わしいことは口にせず、確かなことを慎重に扱えば過ちが少なくなる。
 「多く見て殆(あやうき)を闕(か)き、愼みて其の餘(あまり)を行えば、則(すなわ)ち悔(くい)寡(すくな)し」とは、できるだけ多くのことを見て、あやふやなものを除き、確かなことのみを慎重に行えば後悔しなくて済む。
 「言(げん)に尤(とがめ)寡(すくな)く、行(おこない)に悔(くい)寡(すくな)ければ、祿(ろく)其の中(うち)に在り」とは、言葉に過ちが少なく、行動に後悔が少なければ、官職や俸給は後からついてくる。

 論語の教え35: 「先憂後楽の精神」で仕事に励めば、結果は自ずとついてくる」


正のスパイラル:出典Bing


 ◆先憂後楽とは?
 その意味するところは、「常に民に先立って国のことを心配し、民が楽しんだ後に自分が楽しむこと。転じて、先に苦労・苦難を体験した者は、後に安楽になれる」ということです。「憂」は心配することです。中国,北宋の政治家で文学者でもあった范仲淹(はんちゅうえん)の著作「岳陽楼記」がこの名言の語源です。
 「天下の憂えに先んじて憂え、天下の楽しみに後(おく)れて楽しむ」ということから国家の安危については人より先に心配し、楽しむのは人より遅れて楽しむこと。志士や仁者など、りっぱな人の国家に対する心がけを述べた語」(出典:コトバンク)だと言われています。
 この話は現代にも十分通じる話です。経営者が自分たちの利を先に考え、従業員の福祉を後回しにすれば従業員は士気を下げてしまって働く意欲を無くしてしまいます。従って上に立つ指導的立場の人に先憂後楽の精神があれば会社はボトムアップすることが必定です。
そして、会社が発展するための正のスパイラルが回り始めます。

 ◆人事処遇は求めるものでなく、作り出すもの
 給与、賞与、昇進、昇格などの人事処遇は会社から与えられるものではありません。本項で孔子が子張(しちょう)にアドバイスしているようにやるべきことをきちんとやっていれば、自分から求めなくとも結果は後からついてきます。
 やるべきこともやらずに権利だけ主張していても、会社に支払い能力がなければどうにもなりません。私たちのこれまでのコンサルティング経験によりますと給与や昇進などの処遇に動機づけられている社員が多い企業ほど業績が悪く、社員の求めるところとは反対に給与や賞与などの処遇が悪くなって社員の不満が鬱積しています。
 先に正のスパイラルのことを述べましたがこのような企業は逆に負のスパイラルに陥ってしまっています。これではどんな対策を打っても的外れになってしまいます。
 まず、分配する原資を全社一丸となって稼ぎ出すことです。自分たちの人事処遇の源泉は顧客がそのすべてを握っていることを全社員が心底認識することが大切です。(了)


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