論語に学ぶ人事の心得第17回 「政治であれ、経営であれ指導者は何を価値基準にして実践行動することが重要か?」

 本項から論語の第二編「為政」です。為政とは文字通り政治を行うことですが、孔子は単に政治についての空理空論を振り回しいるのではありません。出身の魯国で宰相格の行政官を経験してきていますので自らの実践で習得した経験法則を弟子たちに伝承しようとしています。
 また、孔子は本項で政治的リーダーの心構えとして「徳」をもって行うことの大切さを説いていますが現代社会の企業経営でも全く通用することです。そこで敢えて企業経営を付け加えました。本項では孔子が生涯を通じて一貫して追求してきた「徳」について言及しています。
 この徳に関しては、前編学而1-6でも学ぶことの目的は単に知識を増やすことではなく「徳」を磨くことであると教えています。

 それでは儒教の開祖である孔子の説く「徳」とは何でしょうか?「徳」とは人間の道徳的卓越性を表します。仁・義・礼・智・信の五徳や孝・悌・忠の実践として表されます。そして、「徳」はさらに人間の道徳性から発展して統治原理とされ、治世者の優れた徳による教化によって秩序の安定がもたらされると考えられました。 
 孔子の言う「徳」というのは生まれながらにして備わっているものでありません。誰にでも備わっているもので後天的に学習によって磨き上げられるものです。規範的な価値を学び、実践し。社会的に認められることで決まります。

 為政2-1「子曰く、政(まつりごと)を爲(な)すに德(とく)を以(もっ)てせば、譬(たと)へば北辰(ほくしん)の、其の所に居て、衆星(しゅうせい)之に共(むか)ふが如(ごと)し」

 先生は言われた。「政(まつりごと)を爲(な)すに德(とく)を以(もっ)てせば」とは政治を行うのに徳によったならということ。「北辰(ほくしん)の、其の所に居て、衆星(しゅうせい)之に共(むか)ふが如(ごと)し」とは北極星を周りの星がこれに向かってお辞儀するように調和する。

 論語の教え17:『北極星のように輝く、「徳」を積んだ指導者には、礼をもって人々は従う』


北極星 出典Wikipedia

 教え1.上に立つ指導者は人々をリードする前に自らの徳を磨け、そうすれば人々は黙って従う。
 孔子が弟子に対して一貫して求め続けたのは指導者である前に求道者であれということでした。そして、求道者として何を追求するのか?それが徳を体得することでした。
 また、徳は生まれながらにして特定の人に備わっているのではなく誰にでも潜在的に備わっていて、毎日の精進によって顕在化してくることを説いたのです。孔子は自らの体験をもとにこの考えに昇華させたのではないかと思われます。
 というのも、孔子自身の出自は高貴な家の出ではありませんし、いわゆるエリート教育を受けたわけでもありません。権力や財力によって人々を従わせることと真逆の考えで指導者の地位を得ました。
 しかも自ら望んだのではなく乞われて指導者としての地位に就いたのです。孔子の教えを慕って3000人もの弟子が集まりました。親子二代にわたり教えを乞うた人もいたと伝えられているのはまさにこの教えを体現しているのではないでしょうか。

 教え2.組織が健全かどうかは指導者次第である。
 そもそも組織の健全度とは何でしょうか?
 何をもって組織の健全度を測るのでしょうか?

 組織の健全度とは何でしょうか? いろいろな解釈や説がありますが、私は「組織の健全度とは組織の変化適応力だ」と思います。
 なぜなら、人も組織も変化に適応できなければ衰退しやがては絶滅してしまうからです。まさに太古の昔から地球を支配してきた適者生存の法則にしたがいます。
 進化論で有名なチャールズ・ロバート・ダーウィンの言葉に「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。 唯一生き残ることが出来るのは変化できる者である」と述べています。
変化適応には三つの要素があります。それは変化への感受性、変化への受容性、変化への柔軟性です。
 変化への感受性とは小さな変化も見逃さないことです。変化への受容性とは変化を各個人がばらばらに認識するのではなく組織として受け止め、変化を共有することです。そして、最後の三つめは共有した変化にたいして柔軟に、かつばらばらでなく組織だって変化していくことです。
 この三つの要素に対して影響力を持つキーパーソンがいます。お解りだと思います。そうです。組織を率いるリーダーです。この三つの要素の一つでも欠けるリーダーがいたらメンバーがどんなに優れていたとしてもその組織を救うことができません。一時的に活力を持ちますがやがて消え去ります。
 組織の健全度を測る尺度は指導者のリーダーシップ能力と組織のモラールサーベイを実施することで把握できます。ご関心のある方は当社宛てご一報ください。よろしくお願いします。
(了)


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