論語に学ぶ人事の心得第十二回 「周りから信頼される生き方をするにはどうすべきか」
前回に続き、本項も有子の言葉です。有子の言葉は論語に四回収録されていますが三回はこの学而編に登場します。
学而1-13「有子曰く、信(まこと)の義(ただ)しき於(に)近きは、言(ことのは)復(ふ)む可(べ)き也。恭(いや)の禮(れい)於(に)近きは、恥辱(はずかしめ)を遠(とお)ざく也。因(たよ)るの其の親(みうち)を失はざるは、亦(おおい)に宗(あつま)るべき也」
信(まこと)とは約束を守る誠実さ。言明や約束をどこまでも通すという意味がある。義(ただ)しき於(に)近きとは筋が通っていること。言(ことのは)復(ふ)む可(べ)き也とは言葉通り実行できること。恭(いや)の禮(れい)於(に)近きとはうやうやしさが儒教の礼法にかなっていること。恥辱(はずかしめ)を遠(とお)ざく也とは辱めを受けずに済むこと。因(たよ)るの其の親(みうち)を失はざるはとは信頼すべき人を選ぶ際には親しく近づくにふさわしい人を見失わないこと。亦(おおい)に宗(あつま)るべき也とはこのようにすればまわりから尊敬されるということ。
論語の教え13:「周りから信頼されるには以下三つのことを心掛けて実践する」
第一 約束を守り、言行一致させること。
第二 常に礼儀正しく慇懃無礼でないこと。
第三 周りから尊敬される交友関係を築くこと。
第一の教え 約束を守り、言行一致させること。
言うは易く、行うは難しです。約束を守ることと言行一致させることは他との信頼関係を築く根本原理でもあります。論語ではしばしば信(まこと)という言葉が用いられています。信(まこと)とは約束を守る誠実さ。言明や約束をどこまでも通すという意味があることは前述したとおりです。この教えは社会の最小単位である家族から始まります。家庭内で約束を守れなかったり、言行一致しない人に家庭外でそれが実行できるとは到底考えられません。あらゆる人間関係に当てはまることです。とりわけ上に立つ人は心して実践しましょう。
第二の教え 常に礼儀正しく慇懃無礼でないこと。
誰に対しても社会通念に従い礼儀正しくありたいものです。部下に対して威張り散らすのに上司にゴマをするひとがいます。上司の風上(かざかみ)にもおけない人です。また丁寧すぎて、丁寧であることがかえって相手に不快感を与えてしまうことを慇懃無礼と言います。慇懃無礼な人は礼儀を形で整えていますが心がこもっていないから相手に響かないのです。
六然という言葉がありますので紹介しましょう。どんな場合にも私たちが心得ておかなければならない心のありようです。
◆自處超然(ちょうぜん<自ら処すること超然>)
自分自身に関してはいっこう物に囚われないようにする。
◆處人藹然(あいぜん<人に処すること藹然>)
人に接して相手を楽しませ心地良くさせる。
◆有事斬然(ざんぜん<有事には斬然>)
事があるときはぐずぐずしないで活発にやる。
◆無事澄然(ちょうぜん<無事には澄然>)
事なきときは水のように澄んだ気でおる。
◆得意澹然(たんぜん<得意には澹然>)
得意なときは淡々とあっさりしておる。
◆失意泰然(たいぜん<失意には泰然>)
失意のときは泰然自若(じじゃく)としておる
ここでは言葉の意味を詳しく解説しませんが賢明なみなさんは字面からお察しいただけるものと思います。
第三 周りから尊敬される交友関係を築くこと。
「あの人は素晴らしい人だけど、彼の友人は信頼できない」「あの部長は立派だけれど取り巻きがよくない」といった評判を聞くことがあります。人間は神様ではないので全(まった)き存在ではありません。長所も欠点もあります。しかし、大切なことは第一の教えや第二の教えに欠陥のある人との交友は極力避ける必要があると思います。部下のそのような噂を耳にしたら上司として直ちに事実を確認し是正する必要があります
なぜなら、あなた自身も欠陥があるかもしれないと思われるからです。
これまで長年にわたり苦労して信頼関係を構築してきた交友関係にヒビを入れてしまうことになりかねません。それにとどまらず、交友関係が崩壊することになりかねません。
(了)