「高コスト・人材不足常態化時代を迎えた日系企業」(その①)

■はじめに―この試練を乗り切る人事管理はいかにあるべきか
 多くの皆様がご高承の通り日系企業を取り巻く経営及び人事環境は激変しています。
 毎年JETRO(日本貿易振興機構)が日系企業の経営問題を調査していますが、それによりますと第一位は賃金の上昇で、第二位は調達コストの上昇、第三位は競争相手の台頭、第四位は品質管理、第五位は環境規制でした。
 とりわけ、人件費の上昇を指摘したのは回答企業の75%にも及んでいます。品質管理も社員の質と大いに巻毛がありますから経営問題の上位五位に人事問題が二つも入っています。
 直面する人事問題を私たちはどのように受け止めるべきでしょうか。私はこの試練はすべての企業に天(経営環境)が平等に与えた試練であり、新たな企業革新を生む機会だと理解すべきだと考えます。企業を強くするチャンスなのです。逃げずに敢然と立ち向かうことで勝機は生まれます。人事管理面では人事革新時代の到来を意味します。
 人事革新時代に真っ先に注力することは以下の三点です。
 第一は年功主義から能力本位人事へと発展させること。
 正銘では能力主義という考え方ではなく一歩さらに踏み込んで能力本位という人事管理上の新たな価値観を提唱しています。最高の貨幣価値を持たせることを金本位と言いますが人事管理上の最高価値を能力に置くことを意図してどこの企業よりも先駆けてこの言葉を導入しました。
 第二は人事管理を経営の中心に据えること。
 このことを正銘では「経営人事」と称しています。経営人事を進めるには人事専門部署の設置と人事専門家の配置が絶対条件です。素人が片手間に人事を行うほど企業内で発生する人事問題は簡単ではありません。アマチュアの時代は完全に去り、プロが人事をする時代を迎えました。
 第三にこれまでの人事諸制度をすべて見直す。
 人事諸制度は時の経過とともに陳腐化しています。10年も前の創業時に制定した人事諸規則を何も更新せずそのまま使用している企業があります。問題はその企業の実態と決められた規則が一致しているかどうかです。規則は規則で別の存在になったいて実態と会っていないケースはいわゆる悪しき慣行として規則化されています。これらをすべて清算する必要があります。

1.これからのすべての企業が準備すべき人事管理施策は何か?
1.1 2019年は何を最優先して対応すべきでしょうか。
私は以下の三点を特にあげておきたいと思います。
① 人事管理と労務管理の悪循環を断ち切る。
 人事管理は一人ひとりの社員を個別管理することであり、労務管理は社員を集団管理することです。労務管理では社員を労働力としてしかみなしません。社員の肉体的労働力を期待するだけです。従いまして社員の能力が向上することは期待しません。
 一方、人事管理は真逆の管理方法です。社員一人ひとりの違いを把握することが人事管理の出発点です。一人人の能力や適性を把握して適材適所の配置をすることが大原則です。正銘の調査では能力の向上を期待しない社員は誰もいないと言っていいと思います。
② 職場風土改革に取り組む。
 前項は個人の能力の問題ですが、この職場風土の改革は組織能力の向上を意味しています、会社の組織では個人がいくら意欲的であっても職場風土が社員の意欲を削ぐようだったらいい成果を出すことができません。むしろ、この組織能力が強いか弱いかで社員のやる気を決めることになります。また、いい成果が出せるかどうかも決まります。
 それではこの実態が見えにくい職場風土をどのように把握し改革に取り組むのでしょうか。問題解決は原因が特定できれば解決できたも同然だと言われます。職場風土改革に最もふさわしい言葉です。職場風土を決めているのはその職場の二人の人物です。一人は会社から正式に任命された職位者です。部長とか課長とか係長といったように長という名前が付く人たちです。もう一人は、会社から正式に任命されたわけでもなのにその職場で隠然たる影響力を持っているひとです。この二人が特定できこの人たちがどのような心理状態で毎日の職場で働いているのかがわかれば必ず改革策が見えてきます。
③人事専門家を養成する。
 人事専門家を必要性については記述しました。どのように育成するのかも5月第三週ブログで取り上げましたのでここではポイント述べます。
①まず採用業務を担当する。
 人事担当者候補が決まったらまず何を担当させるかについてですが私は採用業務を第一にさせることが重要だと思います。その理由の第一は社員を大切にする心構えを醸成できるからです。とりわけ人材不足になりますとやっと採用できた人だから大切に育てようとする気持ちが湧いてきます。
 第二は「採用は人事業務の出発点」です。「人事は採用に始まり採用に終わる」という言葉があるくらいです。また、人事業務の中で最も難しいのも採用業務です。難しい採用業務で多くの人々に会い人を見る目を養います。
②次に人財育成業務を担当する。
 採用して入社してきた人をどう育てていくかを企画するのが人財育成業務です。入社後のオリエンテーションから始まり階層別教育プログラム、職能別能力開発プログラムへと展開してゆきます。
 この間に教育技法、教授法なども学習します。
③三番目に人事行政部門を担当します。
 人事処遇と人材配置を担当する部門です。人と人の組み合わせを考えるのがこの部門の仕事になります。人事担当者の最高の技術の一つがこの組み合わせです。組織が活性化するのも萎えるのもこの組み合わせ次第だからです。
④最後が人事企画部門を担当することになります。
 採用、能力開発、人事行政の各職能で実務経験をした後で人事制度企画や要員計画、組織制度企画を担当します。

 人事担当者は知識が増えるだけでは務まりません。必ず実務経験を積まなければなりません。人事担当者の育成は知識教育と経験教育を総動員することが必要です。つまり、キャリアプログラムを通じた人財育成計画が不可欠です。

 以下次回に2019年正銘からの提言と第二部「定着率を高め社員のやる気を刺激する人事管理制度の導入方法」を取り上げます。


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