人はなぜ変わらない(変われ)ないのか? 人はどうすれば変わる(変われる)のか?

1初めに―人事制度の改革で思うこと
 お客様の要望にいかに応えられるかを悩みながらも懸命にご満足のゆくサービスが届けれれるように日夜奮闘しているのが今日この頃です。今回のブログでは正銘が取り組んでいる新しく提案した制度がるいかにすれば定着できるかを取り上げてみたいと思います。
 最近、お客様に新人事制度の提案をする機会がありました。今までにない新しい人事制度企画でした。会社の実態を調査し、顧客の要望に沿って人事制度を企画したのですが社員の反応は様々でした。
 この会社だけでなく多くの会社ではせっかく新しい制度を作っても社員の反対で導入できなかったり、経営者自身も導入することに不安を感じ自信がなくお蔵入りになったケースが珍しくありません。
 それぞれの会社には固有の理由や事情があるものと思われますが、社員の気持ちを理解できずに会社サイドの理由だけで一方的に導入しようとするから社員から反発を受け導入がとん挫するか、または導入したとしても定着せず途中で古い制度に戻ってしまう場合が多いのです。
人はなぜ変わらなければならないのでしょうか
 そこで私は以下の命題を考えてみました。「なぜ人は変わらない(変われない)のか」さらに、人はなぜ変わらなければいけないのかということです。
 まず、なぜ人は変わらなければならないのかについて述べたいと思います。企業は環境適応業だといわれます。ご承知の通りどんな企業でも世の中の変化に適応できなければ存続できません。企業が存続できなければ社員もその企業の構成員であることができないことは言うまでもありません。企業も人も生きるために変わらなければならないのです。
 変化を宿命づけられているにもかかわらず組織も人もなかなか変わることができないのが現実です。なぜでしょうか。
私は二つの理由がそこに存在すると思っています。
第一の理由は組織や職場に「変わりたくない」「変われない」という空気が漂っているからです。専門用語でこのことを集団規範と呼んでいます。集団規範は明文化されている規則だけでなく目に見えない暗黙の合意された内容を含みます。この集団規範が変化を積極的に受け入れようとしているのかそうでないのかで組織全体の変化適応力が決まります。集団規範が変化を好まない場合には個人でいくら変化しようとしても限界があります。ではこの空気は誰が作り出しているのでしょうか。公式、非公式に関係なくその組織に最も影響力を行使できる人が空気を作っているのです。空気を作っている人が変化適応力があるかどうかが変化に敏感な組織が維持できるかどうか決まります。
第二に個人の変化適応力を阻害しているのは自己の能力の可能性に限界を感じているからです。これはある意味個人の思い込みや誤解に起因することが多く確たる根拠があって成長がストップしたわけではないのです。人の潜在能力は無限です。井戸水と同じように汲めば汲むほど水は湧いてきます。水をくむ努力を怠って自己の可能性を悲観していることが多いことも事実です。

2人は環境の動物である
2.1B=F(P E)
 上記は行動科学の創始者と言われるアメリカ人のクルト・レヴィンの考案した方程式です。
人間のB:behaibior(行為)はP:personality(人格)とE:environmennt(環境)で決まるというものです。
よくよく考えてみますと人は両親のDNAを受け継いでこの世に生まれますが育った家庭、育った社会、学んだ学校、働いた組織で人格が形成されます。
 つまり、環境がその人の人生を決めるといっても言い過ぎではありません。

3なぜ人は行動を変えるのか?
 人の行動や考え方を変えるのはなかなか難しいことだと理解していただけたかと思いますが、それでも人はある場面に遭遇した時には行動を変えることができます。以下その場面をシーンごとに述べてみましょう。
3.1恐怖感を感じた時
 恐怖の度合いが強ければ強いほど行動変容が行われます。恐怖感で行動変容を求めることは異常事態、緊急事態が発生した時には効果的ですが、何もない普通の時にはには向きません。
 創業時のように組織の成熟度が低かったり、業績が低迷して従業員が疑心暗鬼になり、理性的な情報を受け入れられない場合などでは効果があります。従業員のレベルが低く、ルール違反が常態化しているような場合にも適用すると効果的です。

3.2伝達者が信頼できる時
 聞こえていること、聞いて理解すること、聴いて理解して、行動を変えることは同一線上にはありません。報連相(報告・連絡・相談)つまりコミュニケーションはお互いの信頼関係を作ることから始めましょう。部下は信頼していない上司の話は聞いて理解はしても行動しません。理解することと行動することは全くの別物であることをご理解ください。同じように、信頼していない上司の話はあまり聞こうとしません。部下が上司を信頼する要素は上司の人間性と高い専門能力であることを忘れないでほしいものです。

3.3集団決定する時
 集団決定に参加することほど個人の態度変容を強く刺激する要素はありません。
 集団決定とは目標を共有する組織の中で個々人の目標を自己決定することを言います。
 つまり、組織構成員全員が賛同して決めたことに対しては全面的に従うということです。押し付けられて決めたのではなく、自らの意思で決定に主体的に参画できたとき、決定に自己の意見を反映できたとき、意見の一致度が高ければ高いほど実践度が増大します。
集団決定をした時に発生する効果の三要因は以下の通りです。
①集団成員が自らの手で集団規範を作り出せる
②集団討議による意見の一致ができる
③自己決定できる

3.4集団圧力を感じる時
 これまでの生活が一変するとき感じる圧迫感です。例えば、学校生活おえて職業生活に入った時に拘束観がこれにあたります。これほど強いインパクトはありませんが転職したときに新しい組織に転入したばかりの時に感じる組織の空気を察した時などもこれにあたります。上司や先輩など他人の目(冷たい目線)を意識する時なども集団圧力と考えていいでしょう。自らの手で集団規範を作り出せるとより集団規範を体感することができます。

4人の行動は段階を経て変わる
 人の行動はある事態に遭遇して一気に変わるのではありません。以下のような心理的プロセスをたどって変わります。

4.1第一段階 抵抗の段階
 人は誰でも変化には基本的に保守的です。新たな変化には心理的にも物理的にも抵抗します。自我意識の強い人ほど抵抗感は強いのです。この段階では態度変容を求めすぎないことが大切です。変化を受け入れるよう強圧的態度をとるとかえって反発が強くなります。これまでの人生で積み上げてきた価値観や認識や行動を固守しようと一生懸命になります。一方で、不安はあまり生じておらず、精神的には安定しています。

4.2第二段階 変容準備の段階
 次第に、新しい価値や基準について認識や経験が増えるにつれて抵抗心が和らいできます。捨てるもの(古い価値)と得るもの(新しい価値)を比較しながら新しい価値が理解しつつあるのがこの段階です。これまでの態度を強化する気持ちと変化させることを受け入れ準備する段階です。このまま信用していいものかと不安が高まり始めるのもこの段階です。信頼関係を築き上げることに注力してください。

4.3第三段階 不安定不均衡の段階
 過去にこだわるのか新しい事態にむかっていいのか振り子のように激しく精神的に揺れる時期です。基本的に新しい価値を受け入れることと拒否することと均衡する心理状態になります。よほどの確信があれば別ですが、意志決定するときには決める時にも揺れますが決めた後も揺れます。車や家などの高価な買い物したときにおこる心理状態と同じです。
 これまでの認識や行動が新しい認識と行動とが最大の不均衡を示す段階です。受け入れるのか拒否するのか不安が最高潮に達します。その人の価値観の中核にある概念と関係が強ければ強いほど不安が増加すると共に変容に時間がかかります。不安の状態が長く続くと行動変容も遅くなるので長引かせないことがポイントです。

4.4第四段階 再体制下の段階
 激しい心理的振り子の状態が続いた後、認知要素、感情要素、行為要素が均衡を始めます。
 心理的に意志決定後は、自らの決定を否定するより肯定する心理状態になる(合理化)ことを意味しています。新しい認識や行動へと移行する段階になります。この段階になりますと不安が減少傾向を示すようになります。

4.5第五段階 安泰強化の段階
 新しい価値を納得し、自らの意思で実践につなげたような行動を始めます。認知要素、感情要素が完全にクリアされたことになるので実践行動につなげるように導入する必要があります。新しい認識や行動を強化してゆく段階に到達しました。不安傾向が減少し確実に安定化に向かって行きます。実践行動をすればするほど確信の要素が強くなり変容が持続します。

5まとめ
 以上のようなプロセスをたどってやっと人は新しい制度や施策を受け入れるようになります。ある意味面倒な手間暇のかかる根気のいるプロセスですが、ここが人が人であるゆえんであることを理解しなければなりません。
 長い間培ってきた人の価値観は簡単には変わらないことを認識していただくと同時に人の価値観や態度は必ず変わるのだという確信も合わせてもっていただくとよいと思います。


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