正銘はなぜ人事制度改革でモラールサーベイやマネジメント力調査をするのか?

 当社は人事諸制度改革の委託を受けた時に必ず実施すること三つあります。
 それは社員意識調査と職場風土調査とマネジメント力調査です。一般的にはモラールサーベイや社員満足度調査とも呼ばれています。調査方法はアンケート調査による定量調査とインタビューによる定性調査の二本立てで行います。
 必ず実施するのは「他人の晴れ着は自分に似合うとは限らない」との信念に基づいているからです。つまり、委託の依頼があった時に、しばしば聞く言葉は「よそで成功しているからわが社でも導入したい」ということが多いのです。しかしながら、他社で成功した事例をそのままわが社に適用しても成功するとは限りません。いや、失敗することの方が多いと言った方が正確かもしれません。
 当社が事前に前述の調査をする目的は以下の三点です。
 第一点はその会社に最もふさわしい制度を導入する為です。
 その会社にふさわしい人事制度を導入するためには社内の職場風土、個人の意識、個人の能力を把握する必要があります。とりわけ当社が重要と考えているのは管理職のリーダーシップやマネジメント力です。新しい人事制度が機能するかしないかのカギを握っているのは管理職だといっても言い過ぎではありません。人事評価制度などは被評価者である一般社員よりも評価者である上司、つまり管理職の評価能力がその成否を握っているのです。
 第二点は人事制度導入することそのものが目的ではありません。制度導入後機能させ定着させるためです。
 せっかく多額の費用と労力をかけて新しい制度を導入したにもかかわらず、旧来の制度に戻ってしまった事例にもよく遭遇します。その理由の大半は新制度を導入したけれどもいざ現場で実施してみると難しくて現場が混乱したため導入を断念したというのです。
 新しい制度に対する理解不足や新制度導入への抵抗感など様々な理由が想定できますが基本的な要因は第一に手段が目的化していること、導入することが目的化していること、第二に運用を考えずに精緻な仕組みを作り過ぎていること。仕組みが精緻過ぎれば過ぎるほど硬直化します、硬直化することは変化に即応できません。導入を決断した時期、制度設計の時期、制度導入時点、導入後半年、一年後と事態は刻々と変化していることを忘れてはなりません。どんな良い制度を導入しても時代の要請に合わなければ意味はありません。
 第三点は人事制度改革の組織内の受け入れと改革機運を高めるためです。
 前述の新制度が機能せずに旧制度に戻ってしまう理由に受け入れ準備不足があります。組織も人も新しいことへの抵抗感が根強くあります。新しい制度をいきなり導入宣言されても理解はできるものの体がついてゆかないとの現象が生じます。人は原則的に以下のようなステップで行動を変えてゆきます。
第一段階抵抗
 基本的に人は保守的で変化に心理的にも物理的にも抵抗します。自我意識の強い人ほど抵抗感は強いと言われています。これまでの価値観や認識や行動を固守しようと努めるのは最初のこの第一段階です。新しいことを受け入れるつもりはありませんので不安はあまり生じておらず、精神的には安定しています。

第二段階受容準備
 新しい制度が求める新しい価値や基準について理解や経験が増えるにつれて抵抗心が和らいできます。捨てるもの(古い価値感や制度)と得るもの(新しい価値感や制度)を比較しながら新しい価値感を理解しつつある段階です。これまでの抵抗的な態度を強化する気持ちと変化させることを受け入れ準備するのがこの段階です。このまま新しい制度を信用していいものかと不安が高まり始めます。

第三段階不安定不均衡
 新旧の守旧と受容を巡って振り子のように激しく精神的に揺れる時期です。基本的に新しい価値を受け入れることと拒否することは同じ心理状態になります。よほどの確信がなければ意志決定するときには決める時にも揺れますが決めた後も揺れます。高価な洋服を買うときにも心が揺れますが買った後も購買行動がこれで良かったかどうか心が揺れた経験をお持ちの方が多いと思いますが同様の心理状態です。これまでの認識や行動が新しい認識と行動とが最大の不均衡を示す段階です。不安が最高潮に達します。その人の価値観の中核にある概念と関係が強ければ強いほど不安が増加すると共に変容に時間がかかります。不安の状態が長く続くと行動変容も遅くなるので長引かせないことがポイントになります。

第四段階再体制化
 しばらく、激しい心理的振り子の状態が続いた後、認知、感情、行為が均衡を始めます。心理的に意志決定後は、自らの決定を否定するより肯定する心理状態になります(合理化)
この段階から新しい認識や行動へと移行してゆきます。新しいことを受け入れる不安が次第になくなります。

第五段階安定強化
 新しい価値を納得し、自らの意思で受け入れたのだというような行動を始めます。認知、感情が完全にクリアされたことになりますから、受容を促進する行動につなげるように指導する必要があります。新しい認識や行動を強化してゆくのがこの段階です。不安が減少し確実に安定化に向かってゆきます。新しい制度を実践をすればするほど確信の要素が強くなり変容が持続します。


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